世界の路地、それぞれの日々
 ブラジル、どうしようもない日々
                 ヨネブラ・ジルオ記
 Take2
 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 マラバ篇

 車中監禁汗だくの高速、いや拘束道路旅行4泊5日を乗り越え、最初の目的地マラバに到着した。そこは、アマゾン川河口にあるベレンという人口125万の都市から南に500kmほど下ったところにあるちょっとした観光地。

 バスを去る僕を他の乗客たちは手を振って送り出してくれた。服役を終えた囚人を送り出す他の囚人仲間、傍から見ればそんな光景だったろう。

 といっても本当は、そのバスはマラバに着いたわけではなく、僕が降りたのは、そこからバスで3時間ほど離れている名も無き街だった。

 そこでバスを乗り換え、アマゾンの支流を船で向こう岸へと渡る。船着場は小さな村になっていて、レストラン(?)の食器を女の子が川で洗っていた。

 それにしても、市場主義の販路を拡大せよという精神は、すさまじいを通り越してアホだ。テレビを持っている家が何軒あるかも知れないそんな村でも、雑貨屋を覗くとDVDのソフトが売ってたりする。

 この村でDVDプレイヤー持っている人は多く見積もっても2人ぐらいのはずなんだけど。まー、そんなことを考えているうちにバスはマラバに着いた(ちなみに、中田英寿は、その船に乗っていたアマゾンの少年にもその名を知られていた。中田も凄いけど、やっぱりブラジル人のサッカー熱も相当なものだ。)

 適当に街の中心部に宿を決めると、そのまま散歩に出かけた。繁華街には露店が引き締めあい、南米特有のにぎやかでのんびりとした喧騒を響かせていた。

 好奇心を鳴らし、しばらく歩いていたけど、地面を焦がすアマゾンの太陽にふと気付き、長期監禁の疲れがどっと出てきた。アイスキャンディーを買い、僕はいったん宿に戻り、日暮れ時まで寝た。

  目を覚まし、シャワーを浴びて、夕暮れの街に再び散歩に出かけた。太陽が姿を隠そうとしているせいか、街の喧騒もだいぶひけて、干潮の海のようにただ夕暮れ特有のゆったりとした心地よさがあった。歩いているとマラバを流れるアマゾンの支流が見えてきた。

 河岸はちょっとしたリゾートになっているようで、オープンテラスのついたレストランやオシャレなバーがいくつかあった。そのうちの一つのバーに入り、赤紫色から果てしなく黒に近い青へと変わっていく川面も見ながら、一人ビールを飲んだ。

  一人のブラジレイラ(ブラジル人女性)が僕に話しかけてきた。「ねー、ねー見て!あそこに川イルカがいるわ!」

  なるほど、会社の先輩の言っていたことはどうやら本当らしい。僕は、ビールをもう一杯頼み、その子にも一本おごってあげた。すると、その子は「ありがとう」の言葉に続けてこう言った。「ねー、あの子にも何か飲み物ごちそうしてあげて。」

 その子の視線を辿ると、小さな男の子がいた。それにしても、河岸には蚊が多くていらいらする。先輩の言っていたことはデマらしい。僕は二杯目のビールを急いで飲むと、その場を後にした。

  そうしている間にあたりはすっかり夜になっていた。

 さて、そろそろ仕事を始める時間だ。そう、アマゾンの風俗事情のチェッキング。

 「風俗街」

 クールにその一言だけタクシーの運転手に告げる。 後は、「飛ばせ!ぶっと飛ばせ!タクシーマン!」と叫べば、20分後、風俗街が僕の前に現れる。まったくたいした国だぜ。

 しかし、僕の想像以上にこの街の風俗街はすさんでいた。危険な香りこそ、そんなにしないものの、何だこれは?

 頽廃という言葉が似合うほどかっこよくもないし、そうだ、何だか土臭いのだ。そうだ土臭い風俗街なのだ。あはは!

 当時の僕は、ブラジル各地の風俗街を知ることに使命みたいなものを感じていた。そうでなければ、さすがに土臭さにやられて、この風俗街はどの店も覗かずに宿に帰っただろう。

 末舗装の通りにある風俗街を一通り観察し、何とかまだましっぽい店に入店した。赤い薄暗いライトが灯る店内、中には4,5人の女がいた。

 白人、黒人、インディオ系。値段は覚えていないけど、当時サンパウロの一番安い置屋では、5か10レアル(¥150〜300)で女が抱けた。ここの値段もそんなもんだったと思う。

 ビールを飲んでいると白人の女が僕の隣の席にやってきた。年は若干いっているものの綺麗な顔をしていた。

 「おや、そんなに悪くないんじゃないの!? この街」 

 なんてちょっとお高くとまっていたら、衝撃的な一撃を彼女に喰らわされた。女が言った。

 「あなた素敵ね。私の"娘"に似てるわ」

 いやいや、息子の間違いでしょ!それもそれで複雑だけど。僕は聞き返した。

 「No 娘よ」

  娘、娘、娘、娘、娘、私の娘…えっ  何が、どういうこと? ちなみに、一億円かけて整形してみても僕の顔は女のようにはならない。いや、それはこの際忘れるとしても、え

っ、それで  そんな娘似の俺とやるの!?  なるほど、彼女にしてみれば自分の娘似の男とやるのは、なんだか興奮するのかもしれない。でも、俺はなんだか罪悪感があるよ!

 さよなら!マラバ!翌朝、次の街へと向かったことは言うまでも無いだろう。

 【前回記事】
 Take1 ハード・ネイティブ長距離バス旅行
(2011.1.24)

 【筆者紹介】 ヨネブラ・ジルオ

 年齢不詳。大学中退直後、ブラジル、サンパウロにある日刊邦字新聞社で2003年4月から記者を経験。会社の社員寮がスラム街的な場所にあったためか、どうしようもない1年を過ごした(らしい)。その後、紆余曲折を経て、現在はフランス、パリのアンダーグラウンド・シーンで音楽活動をしている。本連載『ブラジル、どうしようもない日々』は、パリで暮らすジルオがブラジル生活を回想して書いた実話。



2011.1.31 文筆劇場・トップ