世界の路地、それぞれの日々
 ブラジル、どうしようもない日々
                 ヨネブラ・ジルオ記
 Take3
 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 ベレンの舞姫篇

 マラバを出発した長距離バスはアマゾンを切り裂いた高速道路を北に上っていく。このバスはシートも倒れるし、エアコンも効いて快適だった。ただ、道中、アマゾンの原生林が視界に広がることを期待していたけど、高速道路の両脇はどこも広大な牧草地帯だった。

 バスは昼一番に出発したはずだけど、途中、バスの故障があったりして、ベレンに到着した時には、既に夜の12時近かった。

 バスターミナルの近くでタクシーを拾うと、運転手さんおすすめの安ホテル(20レアルぐらい)に向かった(タクシー運ちゃんの一口情報。バスターミナルの近くのバーでたむろする女性には要注意。話しかけてきて、酒をごちそうしてくれるらしいけど、それを飲んだら終わり。睡眠薬が入っていて、身包みはがされるらしい)。

 その日はちょうど金曜か土曜の夜だった。探検に出かけない訳にはいかない。アナコンダとの戦いが待っている。荷物を置くとすぐに宿を出てタクシーを拾った。「風俗街」と告げたかだって?馬鹿を言っちゃいけない。僕は神の言葉を聴いていたのだ。

 何故にアマゾンに向かったのか。それは、単純にアマゾンを見たかったから。そして、もう一つ。会社の先輩の「アマゾンに行けば、めちゃくちゃもてるぞ」という言葉に、神のお告げを聴いたような閃きを覚えたからだ。

 当然、目的は素人。向かった先はポロロッカというクラブ(確か入場料が5レアルぐらい)。運転手さんにベレンの若者の間で一番流行っているクラブを聞くと、そこに連れて行ってくれた。

 信じるものは救われる。やっぱり、神様が嘘をつくわけは無いのだ。テーブルに座ってビールを飲んでいると、めちゃくちゃスタイルが良くて、顔もかわいい女が向こうから話かけてきた(彼女は多分、インディオと黒人の混血だったろう。名前は残念ながら覚えていないのでレイラということにしておこう)。

 その夜、そのままレイラと何かがあったわけではない。しばらくレイラとしゃべっていたら、レイラの友だちの明らかにゲイの男たちが現れ、「もう帰るぞ」とレイラをせかすのだ。

 レイラは、電話番号を残し、僕の宿の名前を聞くと残念そうに帰っていった。レイラが帰った後も少しクラブに残っていたけど、収穫もあったことだし、僕は早々と宿に引き返した。

 翌朝、レイラに電話して、その日の午後に会う約束をした。でも、待てど暮らせどレイラは現れない。

 その理由は二つ考えられる。一つは、実は別に俺に興味がなかった。もう一つは雨。その日は、朝から雨が降ったり止んだりしていた。ブラジル人は雨が降ると、「雨が降っている」というだけの理由で外に出かけるのを止めたりするのだ。

 そんな経験がサンパウロでもあったから、僕はレイラを待つのを止めて散策に出かけた。

 ベレンの街には路面列車のレール跡が残っている。その昔、この街は、銀かサトウキビかなんかそんな感じの物の貿易港として栄え(今でも貿易港として栄えているはず)、それを港に運ぶために鉄道が轢かれていたそうだ。

 線路跡を辿ると、小さな船着場に着いた。そこには、いくつかの小船が停泊していた。それらは   水上バスのようなものだった。屋根に幌をかけただけの単純なその木造の船が僕を魅了するから、僕は行き先も分からず、その小船の一つに乗った。僕を乗せた小船は原生林の生い茂るジャングルに覆われていった。  

 ベレンはあくまでもアマゾンの河口にあり、海に直面しているわけではない。でも、その小船からアマゾンを見て、それが川だと思う人は誰もいないだろう。思ったとしても、それは湖だろう。船は二時間ほど走っただろうか、僕にアマゾン気分を満喫させると、どこだかの小さな船着場に着いた。

  船を降りると、大音量のダンスミュージックがあたりの空気を揺らしていた。震源地は船着場のすぐ近くにある屋外レストランだった。別に踊りたい気分ではなかったけど、とりあえずそのレストランで何か食べることにした。

  20歳ぐらいのウェイトレスが注文を取りに来る。とりあえずメニューを見せて欲しいと頼んだけど、フェイジョアーダ(豚肉と豆を煮込んだものをご飯にかけたブラジルの伝統的で一般的な料理)しかない(5レアルぐらい)というから、それとビール(3レアルぐらい)を頼んだ。

 ビールを運んできたのは、他の男のウェイターだった。レストランには、他に漁師らしい荒っぽい男の客が3,4人いた。今日は大漁だったのか、いやに機嫌がよさそうだった。30分ほどして料理を運んできたのも同じ男のウェイターだった。さっきの女性は、ウェイトレスではなく料理人なのだろうか。

 もう一人別の漁師がどこからともなく現れ、彼らのテーブルに座り陽気に騒ぎ立て始めた。すると、すぐにまた別の男が席を立ち、何だかいやらしい笑い声をたてながらレストランの敷地内にある小部屋に入っていく。「なんだあの笑い声は?俺を狙ってんのか?」と警戒し、ツーケー筋(お尻の穴の筋肉)に力を込めていると、例のウェイトレスが現れた。

 「すみません。ビールをもう一本。」僕は呼び止めようとしたのだけど、彼女は「先にオーダーが入っているの」と言うような表情を見せると、例の小部屋に入っていくのだった。

 うん?  これはまさか。噂には聞いていた。でも、まさか、こんなにも偶然にそして普通に遭遇するなんて。これが噂に聞く、アマゾンのレストラン兼風俗だったのだ。

 アマゾン(のちょい奥地)では普通のレストランが普通に風俗になっているところも珍しくなくて、ウェイトレスは食事をテーブルに運ぶだけでなく、パンツの中にまで注文を届けてくれるのだ!

 食事を済ますと、店を出て、どこへともなく歩き出した(自分がどこにいるのかまったく分からないし)。舗装なき道を行く。暑い。バスが僕の横を通過し、20メートル先でとまる。バスに駆け込む。 

 到着したのは、幸運にもアマゾン川のビーチだった。アマゾンギャルがわんさか!対岸の見えない川を背にビキニがはしゃぎまわる。鳥のから揚げを肴にビールを飲みながら、砂浜の上を跳ねていく笑い声をツーケーをパイオツを追いかけた。その間、僕はビーチにあるレストランの椅子に座りっぱなし。つまり、逆ナンパ待ち。先輩!!

 誰にも話かけられないまま石膏と化し、野良犬におしっこをかけられたときには二時間ほど経過していただろうか。

 日も暮れ、ビーチに残る人影も数えるばかり。いいことばかりはありゃしない。しかも最悪なことに、前々から気になっていた虫歯が急に激しく痛み出した。二、三日は、このどこかも分からない場所にいようかと思っていたけど、歯が痛くなるとなんだかとても不安になる。こういう状況では、自分の荷物を置いてある宿は実家並みの安らぎのイメージを持って胸に迫ってくるものだ。

 急いでバスを見つけ、運転手に「ここはどこ?ココアコーヒー。じゃーベレンは?」と聞くと、僕の古典ギャグに腹を立てたけど、いくらか余計なお金を払うと、ベレン行きの船着場まで連れて行ってくれた。

 最終便にぎりぎり間に合い、帰りはエアコン付のちゃんとした水上バスに乗ってベレンまで戻った。ベッドに横たわる頃には歯の痛みは治まっていたけど、暑さにやられたんだろう。身体中がだるくって、いくらか熱もあるようだった。その晩はそのまま疲れ果てて寝た。

 【前回記事】
 Take2 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 マラバ篇 (2011.1.31)
 Take1 ハード・ネイティブ長距離バス旅行
(2011.1.24)

 【筆者紹介】 ヨネブラ・ジルオ

 年齢不詳。大学中退直後、ブラジル、サンパウロにある日刊邦字新聞社で2003年4月から記者を経験。会社の社員寮がスラム街的な場所にあったためか、どうしようもない1年を過ごした(らしい)。その後、紆余曲折を経て、現在はフランス、パリのアンダーグラウンド・シーンで音楽活動をしている。本連載『ブラジル、どうしようもない日々』は、パリで暮らすジルオがブラジル生活を回想して書いた実話。



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