世界の路地、それぞれの日々
 ブラジル、どうしようもない日々
                 ヨネブラ・ジルオ記
 Take4
 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 ベレンの舞姫篇

 翌朝、誰かが部屋のドアをノックする音で目が覚めた。レイラだった。

 バスに乗る前に先輩から聞かされていた。「アマゾンの女にホテルの名前教えると、ホテルまでやってくるから気をつけろ」と。でも、その時僕は思った。何で気をつけなきゃいけないんだと。今、先輩の言葉通り、レイラはわざわざ僕のホテルまで来てくれている。そして、ホテルの名前を教えなければ、レイラとはもう二度と会うことはなかっただろう。

 僕はレイラにキスをした。その先は拒絶されたので、とりあえずシャワーを浴びるため部屋を出た。(僕の部屋にはシャワー無し。あと、ブラジルではいいなと思う子と出会って、10分も話をしたら、とりあえずキスをするべきだ。そうじゃないと、ブラジレイラは‘この人、私に興味がないのね’と思って、どこかに行ってしまう。)

 シャワーを浴びて戻ってくると、エアコンのある高い部屋(60レアルぐらい)に変えてくれるようフロントに頼み、そのまま部屋を移動した。レイラはおっぱいを触らせてくれた。

 その先はひとまず置いといて、僕らは街に散歩に出かけた。マーケットを見に行って、喫茶店でオレンジジュースを飲んだ。やっぱり体調が悪かったようだ。すぐに疲れて、僕らはホテルに戻った。そして、体調が悪いとは言ってもやはりサンバを踊った。ブラジル人素人は半端ない。30分で三回ほど踊っただろうか、最後は「本当に体調悪いから、もう勘弁して」とレイラに告げ、帰ってもらった。そのまま僕は眠った。

 夜、レイラに電話した。電話には、レイラの母親が出た。当時、サンパウロでは携帯電話を持っている若者は少なからずいた。特にクラブで遊ぶような若者は携帯所持率が高かった。でも、ベレンではそこまで携帯が普及していなかったのか、レイラは携帯を持っていなかった。(ちなみに僕も携帯を持っていなかった。)

 レイラは僕のことを既に母親に話してあったようだ。母親は言った。「あら、あなたがジャポネのジルオね!レイラから聞いたわ。是非、是非家にいらっしゃい!約束よ!待ってるわ!じゃー、レイラに代わるわね。」

 レイラは、明日も会えるか聞いてきた。次の日、僕はサンパウロで出会った友達と遊ぶ約束をしていたので、断るとレイラが言った。

「そうなのね。じゃー、明後日は?」
「うん、そうだね。」
「何時に会える?」
「うーん、分かんない。また連絡するよ。」
「何時に電話くれるの?」

 結局、二時間後にもう一度電話をすることになり、明後日のことはまた明日連絡するということになった。

 その日の夜中、腹が減って、ホテルの近くにある広場(レプブリック広場という名前だったと思う)の屋台でホットドッグか何かを食べた。屋台の近くでは、ポーカーみたいなゲームで賭けをしている人たちがいて、僕もそれに混ぜてもらった。雨が降ってきたから、ホットドック代を稼いだところで、僕はホテルに帰った(後から知ったけど、夜この広場は危険で近づかない方がいいらしい。)

 その後、雨は勢いを増して、雷が鳴り響いた。落雷のせいかホテルのエアコンは「ガコンっ」と大きな音を立てて止まるし、僕は少し不吉な予感を感じた。熱もあったし、その夜はうなされた記憶がある。

 次の日、友達に会う前にレイラに電話した。レイラは、「明日家に来るように」としきりに僕に言ってきた。そして、電話を切るとき、またレイラは聞いてきた。「次は、何時間後に電話してくれる?」

 誰かが僕の頭の中で何かをつぶやき始めていた。結局、友達と遊んでいる間に僕はあと三回ほど電話をすることになった。「次は何時に電話?」「次は?」・・・・・・

 僕の頭の中の声は電話の度に大きくなった。三度目の電話で、明日レイラの家に行くことを約束して電話を切った時、その声がはっきりと聞こえた。

 「アマゾンの女にホテルの名前教えると、ホテルまでやってくるから気をつけろ、気をつけろ、気をつけろ、気をつけろ…」

 先輩の忠告の意味がこの時になってようやく分かった。明日、レイラの家に行く、そしてレイラの母親と会う、そしてレイラと結婚。そんな馬鹿なと読者は思うかもしれない。でも、ほんと実際にありうるのだ。僕はなんだか恐ろしくなってきた。ブラジレイラはほんと熱しやすい。いや、結婚は大げさにしても、このままではベレンでレイラに拘束されるのは間違いないと思えた。

 分かりました、白状します。確かに、僕が悪いんです。ホテルでのことです。レイラが彼氏としかやらないって言うから、「僕はレイラの彼氏です」と、確かに僕はレイラにそう言ったのです。10代の少年でもないのに、やりたい一心のみで僕は彼氏と名乗ったのです。

 (ブラジルで素人とやるためには付き合わなきゃいけないとか、そんなことは別にないんだけど、付き合うことを求める女の子は少なくないと思う。それに、ブラジレイラを口説く時は、会ったばっかりでも「なんて奇麗なんだ。あなたが好きだ」ぐらいは言った方がいいから、もはや告白に近いかも。)

 僕は、今晩家に泊めてくれるように友達に頼んだ。友達の了解をもらうと、ホテルに直行しチェックアウトした。もちろん罪悪感があった。レイラと会話をしていて気づいたんだけど、ベレンの人はサンパウロと違って、sを「ス」ではなく「シュ」と発音する。その「シュ」という音が、レイラの純朴な性格を表現しているように響いていた。そんな純粋であろう子を僕は…。

 僕はレイラに電話し、明日の朝一でサンパウロに帰らないといけなくなったと嘘をついた。レイラは僕を引き止めようとしたけど、僕は「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返しながら電話をきった。そして、手紙を書くよと言ったけど、書かなかった。

 だんだん、この旅行記は懺悔に等しくなってきました。レイラさん、ほんとすみませんでした。

 【前回記事】
 Take3 ハード・ネイティブ長距離バス旅行べレンの舞姫篇(2011.2.7)
 Take2 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 マラバ篇(2011.1.31)
 Take1 ハード・ネイティブ長距離バス旅行
(2011.1.24)

 【筆者紹介】 ヨネブラ・ジルオ

 年齢不詳。大学中退直後、ブラジル、サンパウロにある日刊邦字新聞社で2003年4月から記者を経験。会社の社員寮がスラム街的な場所にあったためか、どうしようもない1年を過ごした(らしい)。その後、紆余曲折を経て、現在はフランス、パリのアンダーグラウンド・シーンで音楽活動をしている。本連載『ブラジル、どうしようもない日々』は、パリで暮らすジルオがブラジル生活を回想して書いた実話。



2011.2.14 世界の路地、それぞれの日々  文筆劇場・トップ