世界の路地、それぞれの日々
 ブラジル、どうしようもない日々
                 ヨネブラ・ジルオ記
 Take11
 変化の序章

 僕の生活が変わり始めたのは、日本から持っていったエロ本にも飽きた頃だった。到着して10日目ぐらいだったろうか。どのページにどの女優が写っているかはもちろん、エロ本に書かれてある文章も全て暗唱することができた。会社に行く以外は引きこもって、エロ本ばかり見ていたのだから当然だ。

 でも、もう我慢できない。フッキしたくてしょうがない。僕は、会社の割と年の近い先輩、Cさんに聞いた。「先輩、はちきれそうなんですけど。どこか、いい場所教えてください!」

 この人には、この一年間本当によく面倒を見てもらった。僕のお師匠のような人なんだけど、時にスパルタな一面を見せる。

 まずは、「そんなものそこら中にあるから、行きたければ自分で探せ」という言葉で谷底に僕を落とそうとした。でも、僕は崖っぷちに前足が落ちそうになにながらも、師匠に言い返した。「そんなそこら中にあるなんて、いくらなんでも、それはないでしょ。歌舞伎町みたいなそういう場所があるんでしょ?そこを教えてください」。

 "ほー、言うじゃないか"そう思ったのだろう。師匠は一つの置屋を教えてくれた。師匠の言葉に嘘はなかった。置屋はそこら中にあった。というか、寮から歩いて30秒のところにあった。"お前にあそこに行く勇気があるんなら、いってこい"。先輩はそんな表情で僕を送り出した。会社の昼休み、僕はさっそく一人でそこに行った。

 東京に出てきて間もない18の時、僕は初めてピンサロを体験した。その時も「がっつき過ぎ」と女に注意されるほど緊張したけど、今回はそんなもんじゃない。がっちがち。18の風俗は、興奮もあったけど、今回は興奮先にポコちゃん起たず状態。つまり、興奮よりも何よりも、まず怖いということだ。あの最も身近で最も嫌いなグリセーリオにある置屋。  

 ぼったくられる、いやよく分からないけど殺されないとも限らない。それに外人童貞だ。

 その置屋は、僕が住んでいるようなアパートの道路に面した一階にあった。店に看板はない。(ブラジルの置屋はどこも看板がない。場所によっては目印みたいなものがあって、建物の両脇に鉢植えが置いてあったりする。でも、目印も何もないところが多い。)

 置屋の扉は開いていた。その代わり、入り口には確か赤のすだれのような布がかかっていた。恐る恐る、すだれをくぐる。

 ところどころ壁のはげた狭い店内。カーテン越しの薄明かり。カウンターに座る、わっるそうな兄やん。帰りたくなったけど、もう遅い。兄やんが、既に僕に向かってなんか言っている。

 駄目だ。ブラジルに来て10日の僕には、何言ってるか分からない。完全にぼったくられに来たようなものだ。

 兄やんがカウンターの上に置いていた手を宙に上げた。(きゃっ、どつかれる!)

 でも、手のひらはグーではなく、パー。そして、そのパーを軽く前後させた。

 なるほど。ずっと料金のことを言っていたんだ。ってことは、5レアル?

 正解。

 カウンター前のソファーには、3人のブラジレイラが座っていた。その中から、二十歳ぐらいの綺麗な黒人女性を選び、兄やんに5レアル支払うと、女の子が奥の部屋に連れて行ってくれた。そこには、シーツを1月ほど交換していないであろうシングルベッドが一台あった。

 そして、その子にも5レアル払うと、彼女は服を脱ぎ始めた。15分はなされるがままに過ぎ去った。チューとおっぱいチューは断られつつ。

 (ブラジルの娼婦はチューとおっぱいチューを拒否する人が多い。それは譲れないのだ。おっぱいさえ見せず、視聴には別料金を取る娼婦もいる。西洋の娼婦にとって、チューは日本以上に特別な意味を持っている気がする。日本の風俗では、チューを断られることは滅多にない。でも、ハリウッド映画「プリティー・ウーマン」、フランス映画界の巨匠ゴダール監督の「女と男のいる舗道」なんかを見ると、娼婦は客とのチューをかなり嫌がっている。)

 会社に帰り、師匠に事の次第を報告した。師匠は温かく僕を迎え、コーヒーをおごってくれた。「今度は、別の場所に連れてってやるよ。」ブラジル生活がにわかに輝きだした。

 【前回までの記事】
Take10 ご近所案内(2011.3.28)
Take9 耳を澄まさなくても聞こえる(2011.3.21)
Take8 ブラジル渡航のわけ(2011.3.14)
Take7 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 サルバドール篇(2011.3.7)
Take6 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 サルバドール篇(2011.2.28)
Take5 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 フォルタレーザ篇(2011.2.21)
Take4 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 べレンの舞姫篇2011.2.14)
Take3 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 べレンの舞姫篇(2011.2.7)
Take2 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 マラバ篇(2011.1.31)
Take1 ハード・ネイティブ長距離バス旅行(2011.1.24)


 【筆者紹介】 ヨネブラ・ジルオ

 年齢不詳。大学中退直後、ブラジル、サンパウロにある日刊邦字新聞社で2004年4月から記者を経験。会社の社員寮がスラム街的な場所にあったためか、どうしようもない1年を過ごした(らしい)。その後、紆余曲折を経て、現在はフランス、パリのアンダーグラウンド・シーンで音楽活動をしている。本連載『ブラジル、どうしようもない日々』は、パリで暮らすジルオがブラジル生活を回想して書いた実話。



2011.3.14 世界の路地、それぞれの日々  文筆劇場・トップ