世界の路地、それぞれの日々
 ブラジル、どうしようもない日々
                 ヨネブラ・ジルオ記
 Take17
 日系ブラジル人の葛藤

 アンダの顔のことで思い出したことがある。あれは、僕が19歳の時だったろうか。高校の後輩が開いてくれた合コンで沖縄出身の女の子がいて、アンダはその子の顔に似ている。その合コンで、僕は女の子とはほとんど会話せず、漫画を読みながら、居酒屋2時間飲み放題の時をやり過ごした。3人いた女の子の内、二人の顔はよく覚えている。高速道路で対向車線を走ってきた車の後部座席にいても、「あっ、あの沖縄の子だ」と気づくだろう。合コンには、確か一人かわいい子がいたけど、逆にその子の顔はちっとも思い出せない。そして、同様の理論でアンダの顔もよく覚えている。

 ということで、本題に入ろう。日系ブラジル人の葛藤だ。前回ほんの少し書いたとおり、僕は日系人の若者が開催するフォホーのパーティーに参加した。

 ブラジルで育った純粋な日系人(日本人以外の血が入っていないという意味)は、マルシアを見れば分かるようにどこか日本人離れしている。性格はもちろん、雰囲気や見た目まで。そして、日系ブラジル人と言えば、マルシアが頭にあるから、というよりマルシアしか頭にないから、パーティーに行けばマルシアみたいな女がいっぱいいるんだろうなと思ったわけだ。

 ブラジルのクラブでもてたければ、断然オシャレに決めなければならない。日本のクラブでオシャレするより遥かに重要だ。それは、ボアッチでも言えることであり、むしろボアッチでの経験から学んだことだ。

 ただし、ブラジルでオシャレをするということは危険もともなう。綺麗な格好をしている=金持ち=強盗の対象、という方程式が成り立つからだ。だから、家を出るときはジャケットを羽織らずに、グリセーリオ地区を抜けてからジャケットに腕を通すことになるわけだ。

 そういうわけで、気合入れて、初の日系若者パーティーに参加してみたわけだ。会場についてまずびっくりするのは、会場のでかさと人の数。そして、ウジャウジャした人ごみを見て驚愕する。何故なら、99%日系人なのだ。つまり、2千人ほどいる会場の若者のほぼ全員が日系人。サンパウロのどこに、こんなに日系人の若者がいるんだ?ってぐらい。少なくとも日本人街と呼ばれるリベルダーデ駅周辺では、日系人の若者を見かけるのは1日5回ぐらいだった。(今思うと、リベルダーデ駅周辺は、サンパウロの巣鴨と呼ぶに相応しいだろう。)

 そして、気づく。純粋な日系人の不細工率は相当高という驚愕の事実。(その理由には諸説あるが、それを公にするには問題もあるから止めておこう。)マルシアはどこだ?と、がっかりする反面、何だか自信も沸いてくる。男のだささが特に際立っているのだ。これなら俺、いける!

 それに、当たり前といえば当たり前なんだけど、二千人もいれば、かなりかわいい子も当然いる。自信満々の僕は、一番かわいい子に声をかけた。最初の言葉は、確かこうだった。「日本語分かる?」そこから、「あなた日本人?」となり、会話が広がっていく。(日系人の女の子に話かけるときは、それ以来、この方法が採用されるようになった。)

 その子は、日本の大学に留学していたこともあって、日本語がけっこう話せた。「彼氏いるの?」「いないよ」という話になり、冗談っぽく「じゃー、俺と付き合って」という強めのジャブを放ったところで、その子はトイレに行った。

 その間に、その子の友だちの子に言われた。

「何で、キスしないの?」

 なるほど。この時、僕は知ったのだ。気に入ったら即キス、というブラジル人のマナーを。

 でも、いかんせん、日本で20年以上も生活していると、酒でも入ってない限り、もしくはピンサロ嬢でも相手にしていない限り、出会って10分でキスをするというのはかなり厳しい。

「そんな、会っていきなりキスなんて、マイクタイソンを出会いがしらにぶんなぐるぐらい、度胸がいるよ」と説明してみたけど、その子はまったく僕の言葉を理解していないようだった。

 つまりだ。このように、彼らの思考はブラジル人なのだ。でも、そうおかしいのだ。何がと言うと、さっきも言ったけど、会場には2000人もの人がいるのに、その99%が日系人。別に日系人だけが入場を許可されているわけではない。

 しかも、この種のパーティーは今回限りではなかった。その後も僕は、何度もこの日系人のビッグパーティーに参加した。(新聞記者として取材しに来たと言えば、タダで入場できて、タダ酒が飲めることもあるからだ。それに、例の女の子とも再会し、次は上手くいったし。)でも、相変わらず99%日系人だらけなのだ。

 こんなこともあった。日系人の別のビッグパーティーに参加した時、日系人の女の子が僕に向かって、両目端は横に引っ張る仕草を見せてきた。これは、ブラジル人が日本人をを馬鹿にしたり、からかったりする時にする仕草で、「お前らは目が小さい」と言いたいわけ。でも、おかしい。確かに僕の目は小さいけど、その子よりは確実に大きかった。

 いや、そんなことじゃない。その子は日系人。なのに、僕にそんな仕草を見せる。つまり、その子は、自分が日本人の血を引いているという意識が希薄なのだろう。当然、そんな彼らのほとんどは、コロニアとの関係も希薄。だから、リベルダーデで見かけることもほとんどないわけだ。

 ブラジル人社会との関係も希薄。少なくともプライベートでは、そう断言できるだろう。そして、日本人との関係も希薄。ほんと、俺、彼らのアイデンティティー意識がどうなっているのか不思議で不安。

 日本のオタクよりも複雑だと思うけど、それに似たところがあるような、きっと彼らは新しいアイデンティティー集団なんだろうな。一体、彼らは今後どうなって行くんだろう。

 勝手に「日系人の葛藤」なんていうタイトルを付けてみたけど、どうなんだろう、別に葛藤もしてないのかな。よく、分かんないや。あの女の子、元気かな。もう、誰かと結婚しちゃったかな。可愛かったなー。なんだか、歯切れの悪い話をしてしまったなー。山田君、申し訳ない。

 【前回までの記事】
Take16 フェスタ・ジュニーナ(2011.5.23)
Take15 初めての取材旅行働(2011.5.9)
Take14 初めての取材旅行闘(2011.4.25)
Take13 変化の序章闘 (2011.4.18)
Take12 初めての取材旅行(2011.4.11)
Take11 変化の序章(2011.4.4)
Take10 ご近所案内(2011.3.28)
Take9 耳を澄まさなくても聞こえる(2011.3.21)
Take8 ブラジル渡航のわけ(2011.3.14)
Take7 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 サルバドール篇II(2011.3.7)
Take6 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 サルバドール篇I(2011.2.28)
Take5 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 フォルタレーザ篇(2011.2.21)
Take4 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 べレンの舞姫篇II2011.2.14)
Take3 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 べレンの舞姫篇I(2011.2.7)
Take2 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 マラバ篇(2011.1.31)
Take1 ハード・ネイティブ長距離バス旅行(2011.1.24)


 【筆者紹介】 ヨネブラ・ジルオ

 年齢不詳。大学中退直後、ブラジル、サンパウロにある日刊邦字新聞社で2004年4月から記者を経験。会社の社員寮がスラム街的な場所にあったためか、どうしようもない1年を過ごした(らしい)。その後、紆余曲折を経て、現在はフランス、パリのアンダーグラウンド・シーンで音楽活動をしている。本連載『ブラジル、どうしようもない日々』は、パリで暮らすジルオがブラジル生活を回想して書いた実話。



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