世界の路地、それぞれの日々
 ブラジル、どうしようもない日々
                 ヨネブラ・ジルオ記
 Take18
 月一回の習慣 

 あまりにも油断しすぎていた。というか、なめていた。自分がどこに住んでいるのか、その自覚が欠けていた。そう、僕が住んでいたのは、ブラジルのサンパウロのグリセーリオ。ギボ愛子でも近づかない場所だ。あれっ?ギボちゃん、どこ行った?

 強盗にあったのだ。でも、今思い返してみても、その時の僕は本当に冷静だった。頭だけでなく、心もキーンとするほど冷静、いや冷徹だった。

 その日は、新聞社の飲み会があった。12時過ぎまでみんなで飲んだ。その後、師匠と別の場所に行くつもりでいたけど、指令が出されてそれは中止になった。僕と同じアパートに住んでいる耳の聞こえない編集主幹のおじいちゃん、Rさんを無事に送り届けろというものだ。

 前にも書いた通り、Rさんの部屋には拳銃強盗が入ったことがある。その時、拳銃の柄で頭を殴られ、気を失ったそうだ。それに耳も聞こえず、目の開いている時間の7割を酔っ払って過ごすRさんは、格好の標的だ。実際、Rさんは足を引きずって歩くことが多かった。つまり、それだけしょっちゅう強盗に襲われていた。そんなRさんを心配した人たちが、僕に護衛を言いつけた訳だ。

 リベルダーデ駅近くの中華料理屋を出て、悪質ないたずら書きのような存在である、灯篭型の街灯が設置されたガルボン・ブエノ通りを下っていき、台湾人に侵食され始めたサン・ジョアキン通りを左にまた下る。そうすると、コンセリェイロ・フルタード通りにぶつかる。ここまでは、まー安心だ。日本に比べれば遥かに危険だけれども、まー安心。

 問題は、フルタード通りを横断した後だ。ここから、坂は一気に急になり、グリセーリオ通りとその裏通りのシニンブー通りが交差するところまで落ちていく。

 この坂道を下っていく時、デロデロのRさんを肩に担ぎながら僕は願った。「シニンブー通りで焚き火をやっていませんように」と。

グリセーリオ通りは坂道を下って行く途中で見え始める。でも、シニンブー通りは、坂を下りきるまで見えない。最も気をつけるべきは、シニンブー通りだと言うのに。

 ばっちし。ばっちし、焚き火はなされていた。ばっちし、その周辺で若者やガキンチョどもがたむろしていた。ばっちし、彼らと目があった。そして、グリセーリオ通りを突き進む我々を彼らは、何やら叫びながら走って追いかけてきた。

 ゴールまで、あとわずか30メートル。走ってアパートの門を駆け抜けたいけど、こっちは酔っ払い付。それに、アパートの表門の鍵は馬鹿になっていて、開けるのに15秒はかかる。

 そうなると、彼らが実は親切な人たちで、僕かRさんが何か落としものをしていて、それを届けに走っているんだと期待するしかない。でも、そんな期待は2秒で無くなった。「待てコラ!金出せボケ!」という罵声が目にも映るぐらい物体化していた。諦めた。

 【前回までの記事】
Take17 日系ブラジル人の葛藤(2011.6.13)
Take16 フェスタ・ジュニーナ(2011.5.23)
Take15 初めての取材旅行働(2011.5.9)
Take14 初めての取材旅行闘(2011.4.25)
Take13 変化の序章闘 (2011.4.18)
Take12 初めての取材旅行(2011.4.11)
Take11 変化の序章(2011.4.4)
Take10 ご近所案内(2011.3.28)
Take9 耳を澄まさなくても聞こえる(2011.3.21)
Take8 ブラジル渡航のわけ(2011.3.14)
Take7 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 サルバドール篇II(2011.3.7)
Take6 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 サルバドール篇I(2011.2.28)
Take5 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 フォルタレーザ篇(2011.2.21)
Take4 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 べレンの舞姫篇II2011.2.14)
Take3 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 べレンの舞姫篇I(2011.2.7)
Take2 ハード・ネイティブ長距離バス旅行 マラバ篇(2011.1.31)
Take1 ハード・ネイティブ長距離バス旅行(2011.1.24)


 【筆者紹介】 ヨネブラ・ジルオ

 年齢不詳。大学中退直後、ブラジル、サンパウロにある日刊邦字新聞社で2004年4月から記者を経験。会社の社員寮がスラム街的な場所にあったためか、どうしようもない1年を過ごした(らしい)。その後、紆余曲折を経て、現在はフランス、パリのアンダーグラウンド・シーンで音楽活動をしている。本連載『ブラジル、どうしようもない日々』は、パリで暮らすジルオがブラジル生活を回想して書いた実話。



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