世界の路地、それぞれの日々
青春インド
                      入土 仁 記

 Take8 安らぎ 

  インドは出会いに溢れている。現地の素人女をおとすのは99%不可能に近いけど、金髪からブラック、アラブ系(ほぼイスラエル人)、ラテン系、それにアジア系まで世界中の旅行者やバックパッカーがいて、犬も歩けば棒にあたる状態になっている。年齢層はいろいろだけど、20代が五割以上。

 8ヶ月の間に僕もいろいろな出会いをした。中にはすごく仲良くなって、僕に会いに日本まで来てくれた外人も数人いる。もちろん、いい出会いもあれば、思い出したくもない出会いもある。

 彼女らと出会ったのは、インドに来てから約2週間後。やはりあの宿でのこと。30歳と推定55歳のスイス人の女性二人組。職業はともに看護婦。30女の名はコリン。アルプスの少女ハイジが30になったらこういう具合になるだろうということ間違いなしの顔と雰囲気を有していた。そして、推定55の方。その名を語るのに正直ためらいがあるが、その名をイザベラといった。宮崎駿のアニメに登場する魔女っぽいおばさんにそっくりの顔をしていた。僕の予想に過ぎないが、駿はかつてイザベラを抱いたことがあり、その経験をもとに一連の魔女っぽいおばさんを描いてきたのだろう。つまり宮崎作品は、イザベラを中心に書かれたものであり、あの空想の世界はイザベラを抱いた時の股間の膨らみが肉体を通過して精神世界へと昇華したものなのだろう。イザベラとはそんな女性だった。

  二人は3日ほど同じ宿に泊まっていた。そして、それから約2週間後、偶然二人と再会した時、僕はネパールのポカラという観光地にいた。

  なぜ僕がネパールにいたのか説明しておこう。

  シャームが僕を彼の信者にしたてあげ、僕のお布施と称して周りのバックパッカーに酒をおごり、それを知らずにいた僕は5本分の追加ビール代を支払った。その後僕が乗った汽車というのは、インド・ネパールの国境にわりと近いゴラクプールという街に向かうものだった。イギリス人の若くて可愛い女の子二人にネパール行きを誘われていたのだ。

 その日の5日前、イギリス人の子二人は、僕のいた宿にやってきた。二人とも音楽をやっていたこともあってすぐに仲良くなった。それに、当時バナーラシで開催されていたインド古典音楽のフェスティバルに三人で行った際、二人をナンパしてきたインド人を「失せろ、このチンカス」と僕は追い払った。単にインド人に最早生理的な苛つきを覚えてのことだったけど、これが二人には頼りになる男という印象も与えたのだろう。二人は「一緒にネパールに行こう」と僕を誘った。最初誘われたときは、インドへのこだわりから断った。でも、いざ彼女らの出発の日になって、僕は急遽一緒に行くことに決めた。一緒に付いて行った方が英語の勉強になるし、何よりインドとこのエロいチャンスだと、後者の方が断然重要。

 二人は陽気で一緒にいてとても楽しかった。3P童貞卒業の夢は叶わなかったけれど、三人で二泊三日のトレッキングに出かけたり、ポカラの街をサイクリングしたり。それにネパール人はインド人と違い、誠実で落ち着いた人が多かったことも手伝い、インドにいた時の心のもやもやもだいぶ晴れていた。だから、彼女らが南インドのビーチ・リゾーチに旅立って行った時は寂しかった。そこへも一緒に行こうと誘われたけれど、僕はネパールの首都カトマンズに行くことに決めていた。カトマンズはロックが盛んらしく、新たな刺激を求めるミュージシャンとしては、ネパーリー・ロックに触れない訳にはいかない。(3Pも無理そうだ。)

 二人が旅立った日の夜、僕は一人寂しくポカラの街を雨に濡れた子犬のような目でふらついた。日本料理屋を見つけ、心を暖めようと鍋焼きうどんを食べた。今思うと、もしこの時食べた鍋焼きうどんがいくらかでもましだったら、きっとスイス人の二人と再会した時にあれほど喜び、癒された気分にはならなかったろう。そして、あんなことも起きなかっただろう。鍋焼きうどんは想像以上に不味く、ぬるかった。僕の心は冬を待ち構えるポカラの街とともにさらに冷えていった。

  「駄目だ。寝よう」。僕は宿に向かって歩き出した。すると、見覚えのある後姿が二つ。二つもあるということは、ほぼ間違いない。僕の心はポッと温かくなった。コリンとイザベラがいたのだ。偶然の再会に僕らは抱き合って喜んだ。この二人とは一緒に料理をしたり、実はけっこう仲が良かったのだ。僕らはそのままレストランに行って、ビールを飲んだ。2人は僕よりも年上で包容力があり、僕の冷え切った心を温めてくれた。それから二人がスイスへと帰るまで、一週間ほど僕は2人と行動をともにすることになった。

【バックナンバー】
Take8  ガンジス川のほとりにて3(2012.1.30)
Take7  ガンジス川のほとりにて2(2012.1.4)
Take6 ガンジス川のほとりにて1(2011.12.24)
Take5 Train,train,train (2011.11.23)
Take4 Smells like India 3 (2011.11.19)
Take3 Smells like India 2 (2011.10.15)
Take2 Smells like India  (2011.10.1)
Take1 こんにちは、青春 (2011.9.28)

【寄稿者紹介】入土 仁(インド・ジン)。2008年春、大学院で社会哲学の修士号を取得後、一職人として建築現場で働いていたが、その年の秋に突如インドIN。現在、宇宙飛行士を目指す入土仁が、過酷な訓練の最中に回想した、青春インド放浪記。実話。



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