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 下を向いて歩こう(2)

 少し、『ソラニン』の話を続けましょう。

 主人公の種田は、仕事も辞めて、「もう、後がない」という状況で、バンドの仲間たちとデモテープを作ってレコード会社に送ります。

 その中で、一社だけ連絡をよこしたレコード会社がありました。 その担当者と話し合ってみると、「アイドル歌手のバックバンドとしてなら、使ってやってもいい。ただし、自分で歌うことは、一切、忘れてくれ。」という話でした。

 さらに、5分で決断を求められました。

「お断りします」
種田本人ではなく、同席していた恋人が言いました。

 若いって、たぶん、こういうことなんだな。

 作品の中ではこの決断が肯定的に描かれるのだけど、僕はどちらかと言うと否定的です。正確に言えば、作品としては全くこれでいいと思いますが、リアルな問題としてとらえた時に、この態度はまずいだろうと思うのです。

 みすみすチャンスを逃したわけだからです。

 僕がもし、この状況に置かれたら、おそらく「バックバンドとしてでも使ってください」と頭を下げたでしょう。自分がボーカルをやりたいという理由で、他のメンバーのチャンスまでもつぶすわけにはいきません。

 純粋に自分たちの音楽をやりたいなら、そもそもレコード会社にデモテープを送るということも、しない方がよかったのです。商業化して、音楽で食べていこうと決めた時点で、ある程度の妥協は、どうしても必要になるのです。

 その時に、やっぱり妙にプライドが高い人はやっかいだよね。

 そして、たぶんそれは、自分が社会的にまだ何者でもないから、その裏返しとして虚勢を張るのだよね。自分が、所詮は一般大衆の中の一人にすぎないことに、精神的に耐えられないわけです。僕だって、そうです。    

  山田宏哉記

追記。 でも、この不器用さが羨ましいとは思いますよ。たぶん今の僕は、人の世に迎合しすぎています。

2006.11.15

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