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 諸刃のリミッター外し

   トレーニングなどで、よく、「リミッターを外す」という表現を使います。

 リミッターとは、身体の防衛機能としての、「痛み」「苦しさ」などです。  普通の人は、ここで休息をとるなり、負荷を調整します。

 リミッターとは、言い換えれば、身体の危険信号です。  あるいは、「心理的限界」です。

 アスリートや格闘技者というのは、意図的にこのリミッターを外す人たちです。

 苦痛を無視して、トレーニングを続けるわけです。  また、このようにリミッターを外すことこそが、「限界を打ち破る」手段として賞賛されます。

 ただし、これは、友人にも言ったのですが、リミッターを外すのは、諸刃の剣なのです。

 例えば、素潜りでは、トレーニングを重ねてリミッターを外すと、水中でも全然、苦しくなくなると言います。

 ただし、人間は、酸素が欠乏すると、根性や精神力とは関係なく、生命の危機に瀕します。    リミッターを外した人たちは、苦しくないのに、いきなり意識が飛ぶことになります。

 この現象は、ブラック・アウトと呼ばれ、多くの人たちが海の藻屑となりました。

 これは極端な例ですが、 「苦しい」とか「痛い」という感覚は、無視しない方がいいのです。

 ディファ有明で行われた空手のある試合で、首相撲からの膝蹴りがコメカミに入り、そのまま崩れ落ちた選手がいました。  この選手はフラフラになりながらも、何とか立ち上がりました。

 観客は、この選手を賞賛しました。  「寝ていればよかったものを…」というのが、その時の僕の気持ちです。

 その後、どうなったか。  再度、首相撲からの膝蹴りが、またしてもコメカミに入りました。  衝撃の失神KOです。そのまま、場外へ担ぎ出されていきました。

 その後、この選手がどうなったかわかりませんが、おそらく将来、日常生活に何らかの不具合をきたすことになるでしょう。

 KOは、脳へのダメージが本当に深刻です。  そして、脳へのダメージは、回復しません。

 そして、その時、精神力で立ち上がったことを賞賛した観客たちが、責任を取ってくれるかといったら、そんなことはないのです。

 リミッターを外すことが、人生を棒に振ることもありえるのです。一見、「軟弱者」の方が、有意義な人生を送ることが多いという逆説がここにあるのです。  

  山田宏哉記

追記。 痛がり屋や、臆病者は、決して悪いばかりではないのです。

2006.11.20

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