ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2358)

 【実務家の批評】人事権という魔物

 世の中を動かしている2つの大きな原理は、経済合理性と人事権だと言えます。

 経済合理性の方は、経済学という学問として研究されていて、ある程度、人の知るところとなっています。だからこそ、俗説としても「世の中、所詮カネだ」という言い方がなされます。

 対して、人事権の方は、カネに比べると、あまり注目されていないように思います。しかし、それは決して重要度が低いからではありません。あまりに生々しいために、正面から取り上げづらいのです。

 古来より「成果をあげた者には金銭を与えよ。能力があるものには地位を与えよ」という趣旨の格言があります。つまり、地位は金銭より重いのです。

 なぜ、王様は偉いのか。実は決して、財産を持っているからではありません。臣下の人事権を握っているからです。人事権こそが、権力の源泉です。

 サッカー部では、監督はどの部員をレギュラーにするか、自由に決定することができます。戦力外通告をして、組織から放り出すこともできます。だからこそ部員たちは、監督に認められようとして、必死に努力します。

 部員は決して、経済合理性から努力しているわけではありません。お金で割り切れないからこそ、厄介です。監督に認められてレギュラーになるということは、ある意味、全存在を賭けた闘いです。

 この時、監督は部員の人事権を握っている、と表現できます。

 同様に組織の中では、マネジャーは部下の人事権を握っています。あえて人事権を定義すれば、社会的な生殺与奪の権です。

 一般に人間は、自分の人事権を握る人間(あるいは組織)に逆らうことができません。政治家を見れば、一目瞭然でしょう。

 他人に対しては何とでも言えますが、自分が日々の生活の中で、例えば会社の上司に逆らうことができるか、よく考えてみてください。これはカネの問題ではなく、人事権の問題です。

 そして実は、こんな単純な原理が、大きく世の中を動かしているのです。

   追記.人事権を握ると道徳的に堕落する人間が多いことも、これまた世の常です。

山田宏哉記
 
 2009.11.4
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