ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2362)

 労働分配率はもう上がらない

 投資家(株主)の視点からすると、一般に従業員への待遇が手厚い起業はあまり魅力的とは言えません。無駄な人件費を払っているように見えるからです。

 例えば、ある企業が休憩時間以外にトイレに行くのを禁止する施策を実施したとします。

 従業員から見ればたまったものではないでしょうが、投資家からすると「業務効率の改善につながる施策だ」として、高評価につながる場合が少なくありません。

 会社は株主のものです。

 そして、投資家の視点からすると、会社の従業員はゴミ同然の給料泥棒です。だから、低賃金で労働者を酷使する企業ほど、優秀な経営者がいる優良企業ということになります。

 企業が、支出の中で従業員の人件費に回す割合を労働分配率と呼びます。投資家は労働分配率の上昇を嫌います。

 バブル崩壊以前の日本企業であれば、株主よりも従業員の満足を重視してきました。しかし。グローバル競争が激化し、コスト低減のために人件費の下押し圧力がかかる中で、企業は従業員よりも株主を重視するようになってきています。

 ですので今後、この労働分配率があがることは、もう期待できないでしょう。

 そして、建築現場から墜落したり、線路の工事中に電車にはねられたり、工場で機械に巻き込まれて指を切り落とすのは、大抵、時給10ドル程度のプロレタリアートです。そして、負傷して働けなくなった人間は容赦なく解雇する。

 それがグローバル・スタンダードです。そして、そんな風に人間をボロ雑巾のように使い捨てる企業も、投資対象としては案外、魅力的だったりします。

 よい例がウォルマートです。ウォルマートが従業員を薄給激務で酷使しているのは有名な話です。プロレタリアートの視点からすると「とんでもない悪徳企業だ」となるでしょうが、経営サイドから見ると「好業績を上げる素晴らしい企業だ」となります。

 ただひとつ確実に言える事は、真面目に汗を流して働く人間が、経済的にはますます報われなくなってきているという現実です。

 中国人上司の下で、年収2万ドルで死ぬほど働いても、工場の機械に指を切断されたり、危険な薬品を眼に入れて失明したりして、「もはや、身体障害者」として戦力外通告を受けてクビになるのが関の山かもしれません。

 その一方で、投資家やビジネスオーナーのような不労所得の特権階級には、好きな豪邸に住み、好きな食べ物を食べ、抱きたい女を抱く、という贅沢三昧の人生満喫コースが用意されたりするに違いありません。

 それは何だかとっても素晴らしい世界だとは思いませんか。祝して、笑おうじゃないか。ただし、「自分が特権階級の側にいれば」の話ですが。

   追記.見給え、労働者がまるでゴミのようだ。だから、この企業には投資する価値がある!

山田宏哉記
 
 2009.11.7
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