ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2372)

 IT業界で働くということ  

 ここ何十年かのスパンで見たとき、最も挑戦的に働くことができるのは、何と言ってもIT業界だと思います。その意味で、僕自身、IT業界で働いているということに、若干の誇りを覚えます。

 そもそも、「働く」ということが、企業や官庁の組織に所属し、自宅以外の職場に「出勤」するという形態を取るようになったのは、たかだかここ100年のことです。

 ですので、決して人類にとって普遍的な行動様式ではありません。果たしてそれが、人間の生活にとって有益なことなのかということは、真剣に問われるべきことがらです。

 そして今、ITの進展によって、多くの既存秩序が塗り替えられています。すっかり聞かなくなった単語ですが、やはり「IT革命」は本当に起きていたのです。

 改めて振り返れば、僕自身、ITの進展により多くの恩恵を受けてきました。中でも、自分のウェブサイトを持つことができ、率直な批評を公に問うことができるようになったことは、本当に幸運でした。

 それまでは、一般人が自分の考えを公衆に向かって言おうと思ったら、新聞や雑誌に投書するしか道がなかったのです。新聞や雑誌にオピニオンを書けるのは、権力者や有名人、権威ある専門家などに限られていました。

 この息苦しさというか、閉塞感を前にして、僕は途方に暮れるしかなかったのです。たぶん、多くの人がそう感じていた。でも今では、このときの感情はほとんど忘れられています。

 かつては、電車の中での有益な時間の使い方は、読書をしたり、音楽を聴いたりすることでした。今の僕にとっては、電車の中では原稿を書くのが標準で、読書をしていると、「楽をしている」とちょっとした罪悪感を覚えます。

 大袈裟に言えば、現代においてIT業界で働くということは、歴史に参画できる、同時代の現代史を創造できるということに他なりません。

 電子メールと携帯電話は、あっという間にビジネスの最重要ツールとして世界を席捲することになりました。

 多くの人は、既にこの衝撃を忘れています。後世、間違いなく世界史の教科書で特筆される事柄にもかかわらず、です。

 確かに一時的には、SEの労働条件の厳しさや、中小のソフトウェア・ハウスの苦境などの事例はあります。

 ただ、それでもなお、人類史の突端を切り開くという感覚は、IT業界で働く人間にとって、強烈なモチベーションにつながっているのではないでしょうか。  

   追記. というわけで明日からまた気合いを入れて働きます。

山田宏哉記
 
 2009.11.14
 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ