ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2383)

 批評:『この世でいちばん大切な「カネ」の話』

 西原理恵子(著)『この世でいちばん大切な「カネ」の話』(理論社)を読了しました。

 重い。圧倒的な重量感を備えた内容になっています。「本気で書いたな」ということがすぐにわかります。

 「カネがない」とは、どういうことなのか。あるいは、「カネを稼ぐ」とは、どういうことなのか。

 西原氏自身の自叙伝としても重なる形で、活写されています。おそらく西原氏の半生は、シリアスに語れば不幸の連続ということになるかもしれません。

 貧困、家庭不和、2人の父親の死…。そんな不利な境遇の中から、イラストレーターとして身を立てるに至るまでの過程が、丁寧に書かれています。

 お世辞にも上手いとは言えない絵で、エロ本の出版社に売り込みをかけるというタフさは、おそらく才能をも凌駕します。

 その頃、上手な絵を描いて、芸術論を戦わせていた美大生の多くは、何者にもなれないままで消えていったことでしょう。結局は、西原氏の勝ちです。

 人間、僕自身を含めて「生きるか、死ぬか」の境遇に置かれないと、本気で行動できないのかもしれません。

 ただ、自分が生活できるだけのお金を稼ぐことが、自由あるいは自立につながるということに関しては、深く共感します。

 僕自身、曲がりなりにも自分が暮らしていくだけのお金は、自力で稼いでいます。この一点に関しては、誰にも文句を言われる筋合いはありません。

 「好きなことを仕事に出来ず、宮仕えをするのは不幸だ」とか「薄給激務で哀れだ」とか「あなたは本当の幸せを知らない」とか、言いたい人は勝手に言えばいい。

 バカどもめ、余計なお世話だ。経済的に自由だからこそ、そう啖呵を切れる。

 これが親の脛をかじっていたり、税金から生活保護を受けていたりしたら、しょぼくれて「生きていて、ごめんなさい」みたいな卑屈なことになってしまいます。

 本書からは、そんな「働いてカネを稼ぐ」という原点の重厚感がビシバシと伝わってきます。

   追記. 理論社の「よりみちパンセ」シリーズには良書が多いです。

山田宏哉記
 
 2009.11.22
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