ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2463)

 【入院日誌】ある家族の断片

 本日は休日だったこともあり、同室の御老人(女性)に対してお見舞いに来た家族がありました。

 別に聞き耳を立てていたわけではないのですが、カーテン越しに聞こえてきた会話がやけに印象に残ったので記しておきます。

 来たのは3人。父親(おそらく入院している御老人の息子)と祖父(おそらく夫)と娘(おそらく孫)です。

 入院している祖母は、体調が芳しくなく、食事を吐いて戻したりしている状況。今日も、荘子を引用しつつ「(人間は自分が)知らない場所で生まれて、知らない場所で死んでいく」みたいなことを口をしていた。

 目下の病状に関係なく、この先の人生が決して長いものではないと自覚しているのでしょう。そして、見舞いに来た家族も薄々とそのことに気が付いている。

 ふと祖母が「家族には恵まれてきた」と口にする。

 病室に沈黙が流れる。気付くと娘さんのすすり泣く声が聞こえてくる。

 「こんなところで泣くんじゃないよ」と父親。祖母もシリアスな雰囲気になりすぎたことを反省してか、「ごめんね」と口にしていました。

 「秘密を打ち明けると…」と祖母。「○○(娘さんの名前)は生まれたときはあまり可愛くなかった。だから、3人(祖母、父親、母親)で『可愛がろう』って誓った」

 「写真で見ると、自分でもあまり可愛くなかったと思う」と娘さん。娘さんは近く結婚予定らしい。

 「今度(結婚相手をお見舞いに)連れてくるね」と娘さん。

 「○○子が選んだ人だったら、心配はないよ。いい女になった」と祖母。

 「じゃあ、そろそろ帰ろうか」と父親。「明日は仕事があるから、昼間は来れない。18:30くらいに来るよ」

 部屋から出て行く足音。そしてまた、いつもの病室に戻る。

追記.そしてふと思う。この世界は、記しておかなければ消えてしまうような普通の人々の挿話で溢れている。

山田宏哉記
 
 2010.2.27
 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ