ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2487)

 上海の"蜘蛛人"に労働の原点をみる

 NHKのハイビジョン特集「上海的蜘蛛人」(2009年11月1日放送)を視聴しました。

 "蜘蛛人"というのは、高層ビルの窓ふき職人のことです。ロープで宙吊りになりながら、窓を拭くので、このような名前がつけられたようです。

 上海は今、世界で最も高層ビルが多い都市になっています。それに伴って増えているのは、高層ビルの窓拭きという仕事です。番組では、高層ビルの窓拭き清掃業者が、既に1500社ほどあるという話でした。

 職人として実際に高所作業をするのは、農村から出稼ぎに出てきた人々です。故郷の田舎では、高収入の仕事がないようです。

 容易に想像がつくのは、高層ビルの窓拭きは、常に危険と隣り合わせだということです。高層階から誤って転落したら、大抵、助かりません。

 蜘蛛人の本音は、新人が言っていたように、「仕事を選べる立場なら、ここにはいない」というあたりにありそうです。家族も本音では反対している

 でも、家族を養ったりするためには、ここで働くしかない。転落の恐怖と戦いながら窓ガラスを拭く蜘蛛人の姿に、僕は労働の原点をみるような思いがします。

 定職にはしたくないけれども、一度は僕もやってみたい。

 上海では、高層ビルの需要に供給が追いついていないので、蜘蛛人の数は今後も増えるでしょう。

 日本社会からドロップアウトした日本人も、案外、上海で蜘蛛人として一からやり直し、中華帝国の建設に貢献する方が、生きがいを感じられるかもしれません。

 ただし、冷静に判断するならば、蜘蛛人は、いずれ消えゆく職業でしょう。

 たかが高層ビルの窓ガラスを拭くために、次々と人間が墜落死するというのは、人道的な見地から見て、明らかに問題があります。

 近い将来、技術革新によって、"清掃ロボット"や"汚れにくいガラス"が実用化されて、わざわざ人間が宙吊りになる必要はあまりなくなるでしょう。

 そして、蜘蛛人という都市の黒子に焦点をあてたNHKの視線は、やはりさすがと言うべきかもしれません。

追記.そしてある時、ふっとバランスを崩して地面に墜ちていく。そんな人生も素敵かもしれません。

山田宏哉記
 
 2010.3.13
 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ