ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2495)

 "関心"という名の希少資源

 NHKのクローズアップ現代「タダでもうける?!〜“無料ビジネス”の舞台裏」を視聴しました。クリス・アンダーソンの『フリー』(NHK出版)をタネにしたような番組です。

 色々と収穫がありました。

 まず、行動経済学の成果として、"無料"という価格が特別な意味を持っていることが紹介されていました。

 例えば、消費者に\200の粗悪な商品Aと\1,000の良質な商品Bのどちらかを選んでもらうとする。この時、顧客のAとBの選択比率は、仮に3:7だとする。

 次に、商品AとBの値段設定からそれぞれ\100を引いて、\100と\900にしても、3:7という選択比率はほとんど変わらない。

 ところが、さらに\100を引いて商品Aを\0、商品Bを\800とすると、選択比率が8:2といったように、劇的に無料側に振れるということでした。

 これは経済合理性のある判断とは言えませんが、人々の実際の行動がこのようになっているという知見は貴重です。

 また、ウェブの世界においては、人々の"関心"こそが通貨であり、最も大切な希少資源なのだということを痛感しました。

 現代においては、余暇の過ごし方が多様化して、読書をすることも、音楽を聴くことも、映画を見ることも、携帯電話で遊ぶことも、ウェブを閲覧することもできます。極端な話、選択肢はいくらでもある。

 表現する側にとっては、ライバルは自分の専門ジャンルにいるわけではなく、極端な話、コンテンツ提供者全員がライバルということになります。なぜなら、これは人々の"関心"という希少資源をめぐる競争だからです。

 従って、例えばウェブサービスにおいて、「ユーザー数が増えた」とか「アクセス数が増えた」ということは、それだけ人々の関心を集めたことの証明であり、影響力の増大であり、「それだけで価値がある」と言えます。

 もっと言うなら、金銭的な採算を度外視してでも、人々の関心をかき集めた方が有利になるのがウェブの世界です。具体例を挙げれば、著作権のようなものは放棄した方が訴求力を持ちます。

 グーグルにせよ、youtubeにせよ、ツイッターにせよ、驚くほど金銭的な収益見通しが甘かった。

 従って、「いくら訪問者が増えても、お金が儲からなければ意味がない」とか「しっかりしたビジネスモデルを作ってから、情報発信をしよう」という考え方では、遅れを取ること必定です。

 有償か無償かを問わず、まずは人々が関心を払うサービスなりコンテンツを提供すること。

 そして、旧来的な大組織には採算度外視という跳躍ができない分、個人が活躍する余地が残されているように思います。  

追記."関心"という希少資源に気付かず、単なる"同業者同士の争い"に終始して、業界全体が没落した例としては、音楽業界があるでしょう。そして今、出版業界も同じ過ちを繰り返そうとしています。

山田宏哉記
 
 2010.3.16
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