ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2511)

 "破壊的イノベーション"にどう対処するか

 "イノベーションのジレンマ"Innovator's Dilemmaというクレイトン・クリステンセンの学説があります。ウィキペディアでは以下のように説明しています。

 <優れた特色を持つ商品を売る巨大企業が、その特色を改良する事のみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かず、その商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業の前に力を失う理由を説明したマーケティングの理論>

 破壊的イノベーションの代表的な事例としては、IBMが大型コンピュータに固執して、PCをオモチャ扱いして手痛い打撃を受けたことや、ハードディスク分野で小型化が進むにつれて、上位メーカーが入れ替わったことなどが上げられます。

 インターネットが普及し始めた90年代後半においても、既存メディアは散々、「取るに足りない」というような態度を取り、自分たちを脅かす存在であることに気付くと、今度は敵視的な言説を巻くようになりました。

 グーグルは、破壊的イノベーションによってITの世界に君臨するようになった企業です。グーグルの核には検索エンジンがありますが、検索事業だけをやっているわけではありません。

 メールやブラウザの開発といった検索の周辺分野だけでなく、電力事業のような常人には理解しがたいこともやっています。それを支える労務面の制度が、いわゆる20%ルールです。

 よく知られているように、グーグルの社員(平均年収2,000万円前後と推測)は、勤務時間の20%を本業とは違う、自分の好きなことに費やすことになっています。

 重要なのは、これは「違うことをやってもよい」という自由ではなく、「違うことをしなければならない」という強制だということです。

 ここから導き出せることは、「グーグルは、チープな新技術がいずれ自分たちを脅かす存在になることを警戒している」ということです。実際、その通りでしょう。

 例えば、現在の技術水準では、動画は人間が目で見て確認しないと、何が映っているのか調べるとことはできません。グーグルがYoutubeを買収したのは、危険な眼を早めに摘んでおくという意味で、賢明な選択でした。

 また、脳とコンピュータを直接接続するような技術も、今はまだチープな段階にありますが、破壊的イノベーションになる潜在能力になっています。

 おそらく21世紀中には、脳で映像をイメージしたら、検索結果がスカウターに表示されるような技術が実用化するでしょう。類似技術として、テレパシー(念じるだけで情報伝達できる技術)も実用化されると思います。

 おとぎ話のような世界の中で、情報覇権を握り続けるのは、並大抵のことではありません。グーグルに集結する世界最高水準の頭脳を持ってしても、おそらくそれは不可能でしょう。

 ただし、少しでも寿命を延ばすためには、20%ルールのように、既存技術の改良をはかる持続的イノベーションに注力する傍ら、破壊的イノベーションの動向にも注意深く目を配るという戦略は、極めて有効だと思います。

 尚、このような考え方は、僕たちひとりひとりにとっても、参考になります。

 よく「スペシャリストか、ジェネラリストか」ということが議論されます。スペシャリストには、手に職をつけられるというメリットがある反面、専門分野そのものが消滅したら「何もできない人」になるリスクがあります。

 To be,or not not to be. このままでいいのか、いけないのか。

 暫定的な回答として、我々は自分が選んだ専門分野に対して、グーグルに習い、おそらく「80%の確信と、20%の疑い」を持つくらいが釣り合いが取れていると僕は考えています。

追記.いやはや、情報の世界って本当にエキサイティングですね。

山田宏哉記
 
 2010.3.27
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