ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2519)

 文字表現が誤解される本当の理由

 「言葉では伝えられない」という言説があります。半分は正しく、半分は間違っています。

 さらに言語表現においても、口頭で伝える方が、文字にするよりも、情感や微妙なニュアンスを伝えられることは確かです。

 ここから導き出される結論は、「文字表現は誤解の元」でしょうか。それはある意味では、正しい。

 文字表現をするとき、大幅に抜け落ちるのは"メタ・メッセージ"です。すなわち、字義以外のメッセージです。

 対面で会話をするときは、「ありがとうございます」と言ったとき、相手が本当に喜んでいるのか、建前で言っているのか、直感的に判断することができます。

 これを文字で「ありがとうございます」と表記すると、本当の気持ちが俄にはわからない。凡人はここから、「だから、直接コミュニケーションが大切だ」という結論を導き出します。

 しかし、これはフェアではありません。

 結論を言うと、文章表現が生む誤解の大半は、書き手の言語表現能力の稚拙さに原因があります。文字表現という媒体側に問題があるわけではありません。

 例えば、単語やフレーズに「」や""をつけるとメタ・メッセージを強調することができます。正義や自由といったプラスイメージを持った言葉にカッコをつければ、言外に皮肉のニュアンスを付加することができます。

 これは現代文の基本ですが、案外、習得していない人が多い。

 他にも、文字表現で感謝の気持ちを伝えたいと思ったら、何が嬉しかったのか、時間をかけて、具体的かつ詳細に記すことができます。

 口頭表現と違って、「言ってはならないことを、思わず口走ってしまった」ということもありません。

 口頭で「何が嬉しかったのか」を1時間かけて詳細に喋ったら、相手も迷惑します。しかし、1時間かけて詳細に書いたお礼の挨拶であれば、きっと相手も嬉しいはずです。

 詳細かつ正確に記すことができる点と、記録性において、文字表現は口頭のコミュニケーションよりも優れています。

 日常生活では「あぅあぅあぅ。どうも、どうも」というような情報密度の薄いコミュニケーションでも何とか切り抜けることができます。外国人のジェスチャーと同じです。

 しかし、文字表現ではそんな甘い態度では許されない。情報価値のあることを正確に表記することが求められます。

 「書き言葉では本当の思いが伝わらない」みたいなことを言う人は、大抵、この能力に欠けるのです。そして、実に単にそれだけの話なのです。

追記.ちょっとした自慢ですが、僕は「本当はこういうことが言いたいのに、文章で誤解された」ということがほとんどないのでした。

山田宏哉記
 
 2010.4.2
 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ