ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2529)

 "ヒューリスティクス"とその落とし穴

   北岡元(著)『仕事に役立つインテリジェンス』(PHP新書)を読了しました。

 結論から言うと、期待していたよりも有益でした。いわゆる「仕事術」の書籍ではありません。情報分析の手法について書かれた本です。  

 本書を貫くキーワードに"ヒューリスティクス"という用語があります。「判断や評価に至る思考のショートカット」というのが、その定義とされています。日常用語で言えば、いわゆる"直観"です。

 "ヒューリスティクス"と対照的な概念は"アルゴリズム"です。こちらは、思考をひとつひとつ積み重ねることで、最終的な判断に至ります。

 プロの棋士がコンピュータと将棋を指す場面を想像すればわかりやすいでしょう。

 棋士は、考えられるすべての選択肢を検討しているわけではありません。聞くところによると、最善の手の候補となる2つか3つの打ち手が思い浮かぶのだそうです。それ以外の選択肢は直感的に削ぎ落とされています。

 対して、コンピュータは、考えられるすべての選択肢を検討した上で、最善の手を選びます。強力な計算能力があるからこそ、成り立つ手法です。

 チェスでは人間のチャンピオンよりもコンピュータの方が強いようですが、将棋では人間の方がコンピュータよりも強い。

 現実世界の複雑さを考慮すれば、アルゴリズム型よりも、ヒューリスティクス型の分析を基本に据えた方がよさそうです。

 もっとも僕たちは、ヒューリスティクスに基づいて生活しています。習慣と呼ばれるようなものは、大抵、そうです。

 目覚まし時計が鳴ったら自然と起きるわけで、何も「朝、起きるだけの合理的な理由」を見つけたから起きるわけではありません。

 ただし、ヒューリスティクスが思考のショートカットである以上、誤った認識に至りやすいこともまた事実です。例えば、コインを振って5回連続で表が出たら、「そろそろ裏が出るはずだ」と予測したりするのが、その典型です。本書にはその具体的な事例が豊富に書かれています。

 従って、情報を正しく分析するためには、直観を大切にすると同時に、ヒューリスティクスの落とし穴に留意し、自説をシステム的に検証することが大切になります。

 正しい判断を下すためには、アートの要素とサイエンスの要素の両方が重要だという、極めて常識的な結論に達します。

 僕たち自身、「データを徹底的に収集・分析して、最後は"勘"で決める」というのが、最も高いパフォーマンスに結びつきやすいことを経験的に知っているのではないでしょうか。

追記. 特に、未来予測に興味がある人には、色々と示唆するところがあると思います。

山田宏哉記
 
 2010.4.10
 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ