ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2536)

 なぜ、人を殺してはいけないのか

   なぜ、人を殺してはいけないのか。一言で答えれば、「自然発生的な人間の秩序に反するから」です。

 では、なぜ人間の秩序に反してはいけないのか。それは、あなたも僕も人間だからです。

 「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いかけには、主語がありません。主語を補えば「なぜ人が人を殺してはいけないのか」となります(この問を発するのが、鮫とか熊であるとは考えにくい)

 人間である以上、「人間は万物の尺度である」という枠組みから逃れることはできません。

 従って、「僕たちは人間として生まれてしまったから」というのも、答えとして成立します。

 だから、よほどの事情がない限り、人が人を殺すのは、認められるべきではありません。

 ただし、政治的には「よほどの事情」というのが曲者で、正当防衛、死刑から戦場での戦闘行為に至るまで、グレイゾーンに属する部分があります。

 以下は二次的な分析ですが、「なぜ人を殺してはいけないのか」という少年の問は、「”善良な大人たち”を挑発してやりたい」というメタ・メッセージを含んでいます。

 個人的に、その気持ちはよくわかる。

 本当はこの問を発する人は、暗黙のうちに「人を殺してはいけない」と知っていて、そのルールに従っているのです。

 だからこそ、この問が立ち上がる。

 言葉で明確に表現することはできなくても、ほとんどの人は、暗黙のうちに善悪の判断ができています。

 倫理や道徳は、特定の誰かが決めたことではなく、時間の篩にかけられて残ってきたものです。ですので、ある程度、人間の本性に根ざしています。 

 僕たちは普通、「なぜ、蚊を殺してはいけないのか」などと意識することはありません。

 無意識に蚊をバチンと叩いて「あっ、こんなに血を吸っていた!憎たらしい!」とか思うだけで、そこで尊い生命が失われたなどとは考えません。

 また、人間を基準にして考えれば、蚊は「害虫」ですから、これでいいのです。

 話を戻すと、ほとんどの大人は「人を殺してはいけない理由」を明晰な言語で表現したり説明することはできないでしょう。

 僕自身、未だに他人からは納得のいく答えを聞いたことがありません。

 でも、それはモラルの問題ではなく、あくまで技量の問題です。実生活を送る上では、「ダメなものはダメ」で何の問題もありません。

 ちなみに、珍回答としては「ヒトは高等生物だから」という物言いもありでしょう。

 「イルカやクジラと比べて、ヒト科・ホモサピエンスのIQはこんなに高いんです!」とアピールすれば、ある種の人々は納得するに違いありません。

追記.関連して、"理由が必要とされる行為は「悪」である"という仮説を後述します。

山田宏哉記
 
 2010.4.16
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