ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2576)

 イタリアの若者は何を思うのか/『ローマで語る』覚書

 塩野七生、アントニオ・シモーネ対談集『ローマで語る』(集英社)を読了しました。これは、傑作です。一旦、読み始めたらやめられなくなりました。

 ちなみに2人は母と息子のようです。アントニオ・シモーネ氏は現在は、母親である塩野七生氏のアシスタントのようなことをしているようです。

 映画に関する親子の会話です。例によって脱線した部分の方が興味深いものがあります。特にシモーネさんの発言が秀逸ですので、いくつか引用して紹介しましょう。

 「ボクは、生きたという証拠を何一つ残せないで死ぬくらいの悲劇はないと思うんだ。(略)ロミオとジュリエットの二人は、恋だけは達成して死んだのだから、[人生を満喫せずに死んだ]ティボルトに比べればよほど恵まれている。」(P25)。

 「(シチリアではマフィアが人材派遣業をやっていることに関して)自由市場でのマフィアなんて、存在しませんよ。マフィアのマフィアたる所以は、その分野の独占なんです。だから、彼らの派遣員の一人をクビにしようものなら、全員を引き上げられてしま、映画の撮影は続行不能になる」(前掲書P72)

 「でも、マフィアは永遠だと、つくづく思ってしまいますよ。ある意味では貧民救済機構であり、恵まれない人に生きる糧を与えるシステムでもある。…警察の努力だけでは解決しないところが、マフィアのマフィアたる所以でもある」(前掲書P73〜74)

 「それにしてもアメリカ人とは、不思議な人たちですよね。ベトナムで懲りたくせに、またイラクで繰り返しているのだから。無事に帰国しても社会にとけこめない帰還兵を多く出していることも変わっていない。」(前掲書P190)

 「仕事中はアルコールは厳禁だし、タバコも吸わないという空気になっているのが今のハリウッド。…それでいてハッシシはやっているんだから、ハリウッドは偽善の都でもあるんだけど。…人間関係が実に希薄なところです」(前掲書P201)


 感じたことをストレートに表現するイタリアの若者の発言が、まさかこれほど訴求してくるとはね。そして、見識も極めて高いと言わなければなりません。

 一人の若者の素直な言葉でありながら、"イタリア人の感性"の存在も伝わってくきます。

 確かに塩野七生氏の"調整"や"翻訳"が入っていることを考慮する必要はある。それでも、普段の日本人がいかに「当たり障りのない発言」に終始しているかを痛感させられます。

 そして僕は思う。

 戦争は繰り返すし、"ならず者たち"とも共存していかなくてはいけないし、TV画面の中のスターはドラッグで汚染されている。それが現実じゃないか。

 世界は善悪の彼岸にある。

 それでも僕たちは、人間として「生きたという証拠を何一つ残せないで死ぬくらいの悲劇はない」という一点に共感することができる。強く共感することができる。

 それだけでは、いけないのか。それだけでも充分じゃないか、と。

追記.そうだ、もっと映画を観にいかなくては。

山田宏哉記
 
 2010.5.17
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