ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (2609)
なぜ森タワーに外資系の金融・ITが集まるのか
かつて、六本木ヒルズの森タワーには、ゴールドマン・サックスとリーマン・ブラザーズが入居していることで有名だった。尚、リーマンショックの後は、リーマンのオフィスだった30Fに野村證券が入っている。
対照的にライブドアや楽天、ヤフーのような国内IT企業は、相次いで森タワーから撤退した。
最近では、レノボ・ジャパンや英銀大手のバークレイズ銀行が森タワーに入居し、米グーグル日本法人もこの夏に入居予定となっている。
「週刊朝日」(2010年06月04日号)記事「東京都内一等地のオフィスビル事情」では、ライブドア、楽天、ヤフーなどの森タワー撤退をもって「凋落著しい六本木ヒルズ」などと書いているが、これは見当違いも甚だしい。
新たな入居社であるグーグル、レノボ、バークレイズと森タワーから撤退したライブドア、楽天、ヤフーを比較すれば、落ち目なのは森タワーではなく、撤退した企業の方であるとわかる。
その他、現在では勢いのある外資系IT企業としてセールスフォース・ドットコム、ノキア・シーメンス、バイドゥなどが森タワーにオフィスを構えている。
なぜ、森タワーに外資系の金融・ITが集まるのか。日本のマスコミが"ヒルズ族"で
騒ぐとのは全く別次元で、何か六本木ヒルズには外資系の金融・ITを惹きつける合理的な理由があるのではないか。
その理由がようやく見つかった。それは"電力"に他ならない。
はからずも、「日経産業新聞」の2003/04/23付記事「六本木ヒルズの素顔(下)」に以下のように書かれている。
【引用開始】
六本木ヒルズの素顔(下)電力自給「縁の下」から(街を支える技術)
地下鉄日比谷線と大江戸線が交錯する東京・港区六本木の地下空間。うなりをあげているのは電車だけではない。一日十万人が行き来する複合都市「六本木ヒルズ」内の超高層ビル、森タワーの地下では六基のガスタービンが回転し、電気と熱をつくり続ける。
関係者でないと気付かないような扉を幾つかくぐり抜けて地下深く降りると、緑色に塗装されたタービンやボイラーが並ぶフロアにたどり着く。床面積一万一千平方メートル、天井高十メートルの大きな空間は、さながら地下工場のようだ。
発電能力は約三万八千キロワット。オフィス、住宅、ホテル、映画館などが集まった複合都市で消費する電力は、一部を除きすべてこの地下発電所から供給される。英ロールスロイス社製の汎用航空機向けエンジンを使ったコージェネーション(熱電併給)のプラントを石川島播磨重工業がつくり、建設は新日本製鉄が請け負った。
「東京電力のお世話にはなりません」。地下発電所を運営する森ビルと東京ガスの共同出資会社、六本木エネルギーサービスの担当者は胸を張る。電力会社以外の事業者が電力を供給する特定電気事業としては、都市部で初の本格実施となる。東電とは発電設備の点検時や非常時に電力供給を受けるバックアップ契約をしているだけだ。
パソコンなど情報技術(IT)機器を駆使する現代のビジネススタイルでは、電力を安定的に確保できるかどうかがテナント企業の関心事のひとつ。不測の事態に備え、電力を自給自足できる体制があれば安心だ。(「日経産業新聞」2003/04/23付)
【引用終了】
記事によると、つまり六本木ヒルズは使用電力の大半を地下発電所の自家発電でまかなっている。そして、自家発電がダウン等をした時のみ、東京電力に切り替える。非常時に自家発電に切り替える通常の大型施設とは全く逆になっています。
この設計思想の差は決定的です。いざという時に、自家発電に切り替えるのと、東京電力に切り替えるのでは、どちらかシステムとして安全か、議論するまでもないでしょう。
森タワーを退居する日本企業は、IT企業というより広告代理店で、電源供給などどうでもよく、単にステータスの意味だけで森タワーに入居していたような節が見られます。
本当の金融やITの世界では、安定的な電源供給ができるかどうかは、クリティカルな問題です。僕はこの六本木ヒルズの"東京電力からの独立宣言"を素晴らしいと思います。情報技術のボトルネックはこういう地味な部分にこそあります。
この夏、森タワーに入居予定のグーグルをはじめ、外資系の金融やITが、森ビルの設計思想を高く評価しているのは間違いないでしょう。
地下の発電所による全面的な電力供給。森タワーに外資系の金融・ITが集まるのには、充分に合理的な理由がある。
山田宏哉記
2010.6.21 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ