ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2610)

 森ビルの戦略と世界の中の東京

 六本木ヒルズの森タワーに入居する最重要企業は、案外、森ビルかもしれない。

 森ビルの発想と戦略は、普通の日本人の庶民感覚とはずれている。ディベロッパーの中でも異端に属すると言っても過言ではないだろう。

 とはいえ、発想と戦略の中身は、至極当然で、納得ができるものだ。森ビル社長の森稔氏は、六本木ヒルズや森ビルの商業施設について、次のように語っている。

 「六本木ヒルズは『都市の磁力を発するメディア』として、現代の東京文化や都市文化を生み出し、世界に発信する情報媒体でもあります。」(「日経MJ(流通新聞)」2010/06/21付)

 「〔森ビルの商業施設に消費者が吸い寄せられるのは〕人をひき付ける『磁力』のある空間を作り出しているからでしょうね。全体の街づくりの中で商業施設を計画するため、どの店舗も街の中で統一感を考えて配置しています。」 (「日経MJ(流通新聞)」2010/06/21付)

 この通常のディベロッパーからは感じられない「芸術的美学」が色濃く滲み出ている。

 また、森ビル社長の森稔氏は、2009年よりヘリコプターによる輸送事業(都心-成田間で片道\45,000)を開始しており、プライベート・ジェットの発着枠を増やす政策提言をしている。

 この浮世離れした発想が、世間から無用な反発を買う部分ではある。しかし、よくよく考えれば、これは極めて先見性のある取り組みだと言わなければならない。

 「日経新聞」の取材に対して、森稔氏は、次のように答えている。

 「〔プライベート・ジェットの〕離着陸の回数をみると、ニューヨークでは年間25万回、ロンドンでは7万回。アジアでは最近発着枠を増やしている香港が7000回に伸ばしていますが、羽田はわずか300回、成田も700回にとどまっています」(「日本経済新聞」2010/06/14付)

 「東京は都市間の競争では劣っています。東京を海外の人を引き寄せるグローバルセンターに変えないと生き残っていけませんね」(「日経MJ(流通新聞)」2010/06/21付より)

 東京の"空"が不便なのは、言わずと知れたことである。我々は、いつしかそれを当たり前のこととして受け入れてしまっていて、今更変えようとは思わない。

 しかし、来るべき21世紀の"都市間競争"において、これは致命的なことだ。都市の再開発を手掛ける森ビルが、ヘリコプターの輸送事業やプライベートジェット環境の拡充を提言するのも、そう考えれば納得がいく。

 森ビルの視座にあるのは、いわば「世界の中の東京」である。アジアの中で言えば、上海や香港と比較して、東京が魅力的な都市であることが大切だ。

 森社長の危機感の根本には「交通インフラの整備など怠っていれば、東京はアジアの一地方都市に成り下がってしまう」(「日経産業新聞」2009/03/05付)という意識がある。そして、この懸念はおそらく正しい。

 その森稔社長も、「今後2〜3年をメドに社内で後継者を決め、自らは会長に就任して次期社長をサポートする体制に変更する考えを明らかにした」(「日本経済新聞」2009/12/25付)という。

 森ビルの今後の展開が注目されるところである。何より日本の閉塞感を打破するのは、森ビルのような存在であるような気がしてならない。

山田宏哉記
 
 2010.6.22
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