ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2612)

 六本木ヒルズ・スキャンダルの本質

 2006年、"風紀紊乱罪"によってライブドアと村上ファンドの経営者が逮捕された。

 2006年6月7日付の「日経金融新聞」「村上ショックその先に――ヒルズの宴、市場が整理」という記事では、六本木ヒルズに"クローニー・キャピタルズム"(仲間内資本主義)が出現しつつあったことを指摘している。

 【引用開始】

 六本木ヒルズなどに拠点を置く新興経営者同士は携帯電話やメールでビジネスや投資の情報をひんぱんに交換し合っている。そうした経営者のひとりは「密接な情報共有は、ビジネスのネットワークを広げるのに役立っている」と胸を張る。

 よほど気を付けないと、それはライブドアや村上ファンドが犯したインサイダー取引につながりかねない。会社転がしの情報が経営者の仲間で共有されることで、一種のクローニーキャピタルズム(仲間内資本主義)が生まれつつあった。村上ファンドがつまずいても、透明な市場とどう折り合いをつけるかの課題は残されたままだ。(「日経金融新聞」2006年6月7日付)

 【引用終了】

 この指摘は重要ではある。ただし、上記のような行為をしているのは、何も彼らに限ったことではない。

 誰もがスピード違反している高速道路で、特定の誰かだけが検挙されたら、それは公平であると言えるだろうか。「公平ではない」と私は思う。

 ホリエモンが"風紀紊乱罪"で逮捕された直後、「日本経済新聞」2006/2/14付では、計らずも楽天の社内文化の一端を垣間見せる記事が掲載されている。

 【引用開始】

 ライブドア事件で揺れた六本木ヒルズ。十八階に本社を構える楽天の社長、三木谷浩史(40)は最近、朝礼で「ウチは(ライブドアとは)違う。地に足をつけて頑張ろう」と話した。だが社員の思いは複雑だ。

 「ヒルズ族なんて華やかじゃない」。営業担当、藤田美佳(27、仮名)は苦笑いする。昨春、流通企業を辞めて入社。仮想商店街への出店者を獲得するため、連日朝九時半から終電間際まで働く。ソファで寝泊まりする女性も珍しくない。年収は約五百万円。転職前より百五十万円減った。

 日本企業の社長と新人の年収格差は平均約十倍、米国は百倍以上とされる。楽天の格差はそれを上回るが、それでも「幹部と対等に議論でき意思決定も早い」(藤田)フラットで自己表現しやすい組織に、若い働き手は引き寄せられる。

 「安い給料でどこまでやれるかな」。藤田は辞める気はない。必死で働く毎日が「充実している」からだ。全力疾走しないと置いてきぼりだ。「早くネット小売りの知識を身に付けたい」。何かを実現しようと急ぐ若い世代の意欲を受け止める仕組みがあれば、ライブドア事件後も新興企業が揺らぐことはない。(「日本経済新聞」2006/2/14付)

 【引用終了】

 楽天が「フラットで自己表現しやすい組織」で、「地に足をつけた商売」をしているかどうかは、判断が分かれるところであろう。個人情報(メールアドレス)を転売しているという疑惑もある。

 また、この記事を読む限り、楽天が居心地のよい会社であるようにはあまり思えない。最近では、「社内の公用語を英語にする」という奇策で注目を集めているが、尚更である。

 ただし重要なことは、2006年に六本木ヒルズに拠点を置いていた企業のうち、結果的に、ライブドア、村上ファンド、グッドウィルは「アウト」で、ヤフーと楽天は「セーフ」だったことだ。

 前者が敢えて貧乏人の神経を逆撫でするような言動を取ったのに対して、後者は経営者に比較的庶民への配慮があり、世間的な立ち回りが上手だった。

 2007年には、ヤフーも楽天もイメージが傷ついた森タワーから本社を移転している。ある意味で、"勝ち逃げ"も上手かった。

 恐怖政治を行う秘訣は、誰もが違法行為をしなければ生きて行けないように制度設計することである。そして、従順な人間の"違法行為"は見逃すが、反抗的な人間の"違法行為"は徹底的に取り締まるようにすればよい。

 六本木ヒルズのスキャンダルによって、日本は法治国家ではなく、人治国家であることを露呈した。

 若者が自ら起業するような風潮は一気に損なわれ、日本は"世論"や"見せしめ"で人が逮捕されるような国になってしまったのだ。

山田宏哉記
 
 2010.6.24
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