ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2663)

 映画『インセプション』の衝撃

 クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』を観賞しました。

 これは文句なしの傑作です。絶対観るべき映画のひとつと言ってもいい。

 巷で言われるような「映像が斬新だった」という評は、全然、的を射ていません。

 この映画の凄さは、映画という媒体を通して、「現実と夢(潜在意識)」そして「夢の階層構造」が重層的に織り成す世界像を、明瞭に提示した点にあります。おそらく、これは前人未踏の偉業です。

 「夢の階層構造」とは、簡単に言えば、「夢の中の夢」のことです。僕自身、「夢の中で、夢から覚める」という経験をしたことがあります。

 個人的にはこれは重要な気付きとなる出来事だったのですが、あまり他人と共有できる性質のものでもないので、黙っていました。

 細かい部分を見ても、「夢の中でも痛みを感じる」とか「気付いたら夢の中にいる」という夢の質感が丁寧かつ正確に表現されていて、驚きました。

 マニアックな批評をさせてもらうと、核心的な技術である「夢の共有」に関する技術的な説明が「ない」のは極めて賢明かつ勇気ある判断だったと思います。ここで「脳波のレベルを合わせて…」みたいなもっともらしい説明をすると、どうしてもボロが出てしまうものです。

 また、映画の舞台となっている正確な年代はわかりません。観客に提示されるのは「20世紀後半以降の世界だろう」という漠然とした印象です。

 作中からは携帯電話やPCのような「緻密な時代考証が可能な情報機器」が注意深く排除されている(と私は判断しました)。作品が時代を超えた鑑賞に耐えるために、これは極めて重要な点です。

 さらに、現実的な教訓として、情報(あるいはアイディア)は「漏洩」したり、「盗難」にあったりするよりも、「(おかしな情報や考えを)植え付けられる」方が怖い、という点を明示した点も、特筆に値するでしょう。

 「プロットが複雑なので、筋書きを予習してから観た方が良い」という人もいます。しかし、予備知識は最小限に抑えたいものです。

 普段から「夢と現実の違い」とか「夢は第二の人生になり得るか」とか考えている人なら、おそらく予習で理解できます。

 『インセプション』。できればもう一度、映画館で観たい映画です。

 山田宏哉記



 2010.8.14
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