ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2781)

 NHKスペシャル「秘境・チベット開山大運搬」覚書

 NHKスペシャル「天空の一本道 秘境・チベット開山大運搬」(11月21日放送)を視聴しました。その覚書は以下の通りです。

 ヒマラヤ連峰の東の端、中国・チベット自治区。ヤルツアンポ大峡谷。絶壁が500km続く。夏、4000メートルを超える峰々の雪が消えると、一本の細い道が現れる。

 街から村へと生活物資を運ぶ山越えの道。絶壁を削り取っただけの場行道。これまで多くの人や馬が生命を落としている。

 夏、山が開けると運搬が始まる。村人たちはこれを"開山大運搬"と呼ぶ。

 少数民族の村のひとつジャラサ村。標高1200メートルに600人が暮らす。1000年以上前にこの地にやってきて、住み着いたと言われている。

 夏の間だけ、周囲の山々の雪が解け、山越えの道を通れるようになる。8月、運搬隊の準備が始まる。

 8年前からリーダーを務めるジゲさん(33歳)。5〜6世帯から馬を出し合い、街から役場などで使う米や油を運んでくる。

 政府から運搬手当が支給されるので、村人たちにとってはこれが貴重な現金収入になる。また、都会の品物が買える唯一のチャンスでもある。

 目的地はポメの街。ポメにはモノが溢れている。電化製品にブランド品、店先には経済大国・中国の賑いがある。標高およそ3000メートル。3万人が暮らす交通の要所。天候に恵まれても3日掛かりとなる。

 運搬隊の仲間、帳安祥さん(47歳)。村では数少ない漢民族。25年前、人民解放軍を退役し、この地に留まり、家庭を築いた。出稼ぎで都会暮らしを知る張さんは、知識が広く、仲間からは「先生」と呼ばれている。

 帳さん曰く「俺の人生はずっと苦しかった。若い頃はチベットで兵役につき、故郷で就職できず、ここに残った。でも娘が立派に成長してくれた。それが一番の幸せだよ。」

 断崖絶壁の馬行道は、1〜2メートル程度。足を踏み外して転落すれば、命はない。足を踏み外さなくても、雪崩に巻き込まれたり、凍死したりで、多くの人が命を落としてきた。

 今回、ジゲさんは30キロの洗濯機を担いで帰ってきた。途中で何度も休みを取り、仲間たちからは遅れた。

 荷物を背負って、足元だけを見ていると、背中の荷物が岩に接触し、バランスを崩す危険がある。

 7年前、馬行道が広がり、馬が通れるようになった。それまでは、今よりも細い道を、人が何往復もしていた。

 馬が疲れて立ち往生をすることもある。馬の値段は年収に匹敵する。だから、馬を置いていくわけにはいかない。

 ジゲさんは結婚した時、街からタンスを運んできた。子どもが生まれた時は、乳母車と粉ミルク。家族が増えると大きな食卓。そして、村に電気が通った7年前、ジゲさんはテレビをかついで帰ってきた。

 ジゲさん曰く「一生、大運搬を続けたいんだ。唯一の望みは場行道を整備すること。私には4頭の馬がある。それだけで満足だ。」

 山を越えて、ひとつひとつ担いでくることで、家族の幸せを積み上げる。それが大峡谷に暮らす人々の生き方でもある。

 山田宏哉記

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 2010.11.28 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ