ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2809)

 クローズアップ現代
 「“貧困層ビジネス”グラミン戦略の光と影」覚書


 NHKクローズアップ現代「“貧困層ビジネス”グラミン戦略の光と影」(2010年12月15日放送)を視聴しました。その覚書は以下の通りです。

 年間所得が3000ドル以下の人々は、BOP(base of the Economic Pyramid)と呼ばれる。人口にして40億人、市場規模では400兆円と言われる。彼らをターゲットにした新たなビジネスが大きく動き始めている。

 バングラデシュのグラミン銀行。提携する企業に対して社会貢献を義務付けている。ムハマド・ユヌス総裁曰く「企業には利益ではなく社会問題の解決を追い求めて欲しい。」

 11月、ドイツで開かれた貧困ビジネスの国際会議が開かれた。グラミン銀行のユヌス総裁が招かれた。グラミン銀行は外国企業との提携に乗り出している。

 ユヌス総裁曰く「私たちの目の前にある貧困問題を解決するためには、皆さんの力が多いに役立ちます、それを使わない手はありません。」

 参加した各国の企業担当者たちは、貧困ビジネスへの参加を次々と口にした。

 バングラデシュは人口およそ1億5000万人。その3割が1日2ドル以下で生活している。

 グラミン銀行はこれまで外国企業9社と提携。さまざまな商品を発売している。具体例としては、フランス企業のダノンと組んで、ビタミンを多く含んだヨーグルトを1日6万個生産し、8円で販売している。

 グラミン銀行とバングラデシュへの進出企業が提携するビジネスモデルは以下のようになる。

 グラミン銀行と進出企業が合弁会社を設立する。グラミン銀行は、800万人いる利用者のネットワークを提供する。その中から必要な人材を合弁会社に紹介する。販売するのも、グラミン銀行のネットワーク。

 そのため、企業は初期投資をかけることなく、貧困層向けのビジネスを始めることができる。

 一方、進出企業は先端技術と雇用を提供する。また、合弁会社が得た利益は国外に持ち出すことができず、事業に再投資される。

 ダノン共同最高執行責任者のエマニュエル・ファベール氏曰く「10年後には貧困層市場での売り上げが爆発的に伸びると予想しています。我々はグラミン銀行のモデルを利用して、実験を行っていると言えるでしょう」

 ユヌス総裁曰く「企業には技術と能力があります。それを社会問題の解決に使えば、新たな世界が開けます。これは貧困を解決するために営利企業をあえて利用する全く新しいビジネスモデルなのです」

 今年10月、日本企業が初めてグラミン銀行と契約を結んだ。従業員1600人の食品メーカー。主力食品のもやし。昨年は15億円の売り上げがあったが、利益は落ち込んでいる。これまでもやしのタネになる緑豆を中国から輸入してきたが、仕入れ価格が3年で3倍以上になった。

 そこで、グラミン銀行のネットワークを使い、バングラデシュで緑豆を栽培することにした。

 合弁会社設立の責任者常務の佐竹右行さん。豆の出来には満足な様子だった。中国よりも安く調達できる。さらに余った豆を相場よりも安く販売し、貧困層を助けるビジネスも開始する予定だ。

 バングラデシュではカレーに豆が欠かせない。グラミン銀行と協力して社会貢献をアピールすることは、将来拡大する市場への先行投資になると考えている。

 佐々木氏曰く「将来、我々の豆を食べた子どもたちが大人になったときに消費してもらえる、と。その頃には非常に大きなブランドになると思っています」

 ユヌス総裁曰く「我々のビジネスモデルを通して世界を見れば、全く違ったものが見えてくるはずです。貧困問題の解決のためには、全く違った発想が必要なのです。」

 番組にゲストとして出演した北海学園大学教授の菅原秀幸氏。曰く「ビジネスの目的は利益の追求ですね。グラミン流のモデルは社会問題の解決。全く相容れない目標ではあるが、今後ビジネスの手法を使って、融合しようという動きがでてきているところです。」

「目的は3つあります。次のマーケットを築く、社会的な課題に取り組んでいるという評価、イノベーションの源泉になる。企業にとっては、非金銭的なリターンというのが最も大きなリターンになります。」

 但し、その一方、日本の中小企業との摩擦も生みだしている。

 福岡に立ち上げたグラミン・テクノロジー・ラボの理事岡田昌治氏。岡田さんは大手通信会社で企業提携などを手掛けてきた。岡田さんは中小企業の昔ながらの技術こそ、バングラデシュで実用化できると考えている。

 外国企業との提携を積極的に進めるグラミン銀行だが、ユヌス総裁は相手企業に厳しい条件を求めている。「ビジネスの利益は国外に持ち出してはならず、バングラデシュ国内で貧困問題解決のために使わなければならない。」

 このようなグラミン銀行の哲学が自分たちの技術を役立てたいと考える中小企業の壁になるケースがある。

 水の浄化事業を行う日本ポリグル。小田兼利会長は5年前、バングラデシュで5万人を対象にビジネスを始めた。

 一袋120円で1トンの水を浄化できる。この地域では、溜池の水を生活用水として利用している。溜池の水に浄化剤を入れてかき混ぜると、汚れが固まり、底に沈殿していく。布で濾過し、煮沸すれば、安全な飲料水になる。長く感染症に苦しめられていた村人の人気を呼び、年間500万円の売り上げになっている。

 小田さんは、バングラデシュ全土に販路を拡大したいと思っていた。

 去年、グラミン銀行から合弁会社設立の話を持ちかけられたが、小田さんにとって、その内容は驚くべきものだった。合弁会社が挙げた利益は、日本には一切持ち帰れない。 小田さん曰く「日本の中小企業は儲けがないと出ていけません。ボランティアじゃないし、儲けがないと生きていけません」

 グラミン銀行の巨大なネットワークを利用することは諦めざるを得なかった。販売員を自力で採用し、販路の拡大を図ることにした。1年半かけて60人を確保した。

 小田さん曰く「成功しないと会社つぶさないといけなくなるから、そういう背水の陣でこちらに乗り込んできていて、なるべく早く1000万円を回収したい。そんな何年も先じゃ困るんですね。」

 ユヌス総裁曰く「ひとたび外国企業が参入すると、国の経済を支配し、お金を奪い去っていきます。地元に失業者が増えようと、店が倒産しようと、お構いなしです。これは新たな経済帝国主義ともいえるものです。それを防止するために、私たちのモデルでは利益を追求することは認めません。代わりに社会問題の解決を追い求めるのです。」

 山田宏哉記



 2010.12.17 記事一覧へ戻る 文筆劇場・ト