ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2817)

プロフェッショナル仕事の流儀「小売再建・大久保恒夫」覚書

 NHKプロフェッショナル仕事の流儀「小売再建・大久保恒夫」(2009年11月10日放送)を視聴しました。その覚書は以下の通りです。

 大久保恒夫。小売再建のエキスパート。

 ユニクロの改革を手がけたことでも有名だ。柳井正会長兼社長曰く「我々にとって非常に助かったというか、恩人だってふうに思っていますけど」

 電車と徒歩でオフィスに通勤する。仕事でタクシーや車はほとんど使わない。曰く「会社の経費を無駄に使うともったいない」。

 今、取り組むスーパー成城石井は従業員2000人。今回はコンサルタントではなく、社長として指揮をとっている。但し、社長室はない。

 曰く「社長室はね、いらないですね。昔あったんですけど、そこはすぐ閉めちゃいましたので、仕事できないですよね。」

 実質本位の大久保。用事があれば自ら社員のところに出向く。自分でやった方が速い雑務はさっさと自分でやる。成城石井65店舗展開。5年前経営陣が交代し、利益が悪化した。そこで大久保に会社の建て直しが課せられた。

 リストラをせず、組織を変え、売り場を変え、3年で利益を3倍近くに伸ばしている。
大久保は週の半分はオフィスを離れ、ひとり"店"に出かける。社長になって2年半。今、最も力を入れているのは、"現場の意識"を変えることだ。

 店に入ると、大久保は3つのポイントで売り場を見る。

1.商品の品揃えが豊富で、品切れがないか。

2.売り場は清潔で、掃除が行き届いているか。

3.店員は気持ちのいい挨拶を出来ているか。

 当たり前のことだが、何より大切なことでもある。なぜなら小売の仕事とは「客に喜んでもらう」ことに他ならないからだ。

 曰く「商売というのは、いかに信用していただくか、喜んでもらうか、ということだと思うんですよね。その時もし、買ってもらわなかったとしても『あっ、感じのいい店だったね』といつか来ていただいて、買っていただける、そういうお客さんが大事なんだと」

 ある店で品薄状態が気になった。商品をいくつ仕入れるかは店が決める。余れば損失になるため、店側は仕入れに慎重になりがちになる。しかし、欲しい品物がない売り場では、決してお客さんを喜ばせる売り場にはならない。

 問題はお客さんを喜ばせることより、目先の利益にこだわる現場の意識にある。それを変えなければならない。

 大久保は現場に直接注意することはしない。大事なことは組織のルートを通して全体に伝える。

 方針を徹底するため、売上げでの人事評価はほとんどなくした。お客さんに喜んでもらえることをしたら、評価する。その姿勢が次第に現場の意識を変えつつある。

 今回も大幅な組織改革を行った。「自ら考え、動く人を育てる」。

 但し「人を"変える"のではなく、"変わる"のを待つ」。大久保曰く「私が答えを出して、たまたまその店がよくなったとしても、結局長くは続かないし、本当にいい挨拶にはならない。」

 かつて手がけたユニクロの改革。それまでは本部の指示で同じ商品が画一的に送られていた。そのため、売筋商品は品切れになり、人気薄ばかりが店に並び、客離れの原因になっていた。

 大久保は各店舗により権限を与えることを提案した。さらに本社と店舗の間に立つエリアマネジャーを強化し、本部の指示を各店舗に伝えるとともに、各店舗の要望が本社に伝わる仕組みにした。

 生産や物流のシステムも大幅に変更した。それぞれの店舗が、自らの裁量で、販売する商品と数量を決定できるようにした。陳列などの売場作りも店独自に工夫できるようにした。こうした改革がその後の躍進の基盤になった。

 ユニクロの会長兼社長の柳井正氏曰く「店っていうのは、一店舗一店舗違って、そこの一店舗が最適なものになっとかないといけない。僕もその通りだなって思った。」

 大久保には客に喜ばれる売場作りのノウハウがある。

 売場には優位置と劣位置がある。多くの人が通る箇所に面している売場が優位地。「優位地に人気商品あるいは人気になるであろう商品を置く」というのが鉄則。

 人間の視線は10〜30度下を向いている。商品の棚は高さ1メートル前後の場所が"優位地"になる。尚、子供用のお菓子などはもっと低い位置にする。

 お客さんにとっては「品揃えの豊富さ」が魅力であるため、"見せ筋"の商品もある。「数ある商品の中でこれを選んだ」という感覚がお客さんの満足につながる。優位地に人気商品ばかりを並べると、むしろ売上げは落ちてしまう。

 「フェイス」(おススメの商品)数を増やすことも重要。POS(販売時点情報管理システム)データで売れていれば売場を広げる。同時に店側が「この商品を売りたい」という意思をもつことが大切。

 また、「在庫をたくさん持つ」こと。人気商品が品切れになっている売場ほど魅力のない売場はないので、人気商品はたくさん在庫を持つこと。経営の視点からすると「在庫はできるだけ少なく」だが、お客さんに喜んでもらう以外に小売業が発展する道はない。優先順位が全然違う。

 大久保は愛知生まれ。昭和50年、大学進学のため上京。若い頃から「社長」になるのが夢だった。しかし、大学ではギターやマージャンに明け暮れ、就職活動は大苦戦。希望の大手メーカーに落ち、結局、総合スーパーに入社した。

 神奈川の店舗で店員として働き始めた。銀行や商社に入った同級生からは「何をやっているんだ」とからかわれた。悔しくて仕事の傍ら、経営の勉強を始めた。

 ある日、ライバル店でスリッパが売れているのを見た大久保は、勝手にトラック一杯分のスリッパを仕入れた。上司には怒られたが、店頭に山積みにすると飛ぶように売れた。大久保は思った「小売って面白い」と。

 入社3年目、転機が訪れる。会社をあげて始まった業務改革の事務局に選ばれた。大久保の仕事は会議の内容を議事録にまとめること。どんな改革案が出され、結果を出しているのか、逐一、目の当たりにした。

 会議のない日は、気になる店に足を運んだ。そのうち成功している店には共通点があることに気付いた。売場をサポートする本部のスタッフが売場を盛り立て、店のスタッフが自由にアイディアを出し合っていた。

 大久保は「現場の人がこんな風に働けば、いい売場ができるんだ」と感じた。

 8年後、身に着けたノウハウを活かそうと独立。経営コンサルタントの会社を起こした。しかし、望むような仕事の依頼はなかなか来なかった。仕事を増やすため、スタッフを雇って商品の陳列ソフトの開発に乗り出した。しかし、開発に手間取り赤字になった。

 小売に関する仕事なら何でも引き受け、必死に働いた。独立9年目、知人の紹介で大きなチャンスがめぐってきた。

 急拡大していたファースト・リテイリングの業績予想が芳しくなかった。「その改革案を提案してみないか」という話だった。千載一遇のチャンスだった。

 現場を回ってすぐに気が付いた。「会社を急成長させてきた効率最優先のやり方が、逆に足枷になっている」。問題の所在は明らかだが、改革のやり方はこれまでのやり方を否定するものになる。

 大久保は渾身の提案書を書いた。大久保の提案を聴いた社長の柳井はまずは同席した役員たちに1人ずつ意見を求めた。これまでとは違うことが書かれているため、役員たちは困った様子だった。

 その上で柳井は言った。「これを全部やります。」

 改革が始まると、会社は大きく変わり始めた。フリースの服の大ヒットと相まって、3年後、利益は16倍にまで伸びた。小売再建のプロとしての歩みは、こうして始まった。

 大久保曰く「仕事に楽しく挑戦し、仕事を通して成長できる人。なおかつ、部下を仕事を通して成長させられる人。これがプロフェッショナルだと思います。」

(以上、3200字)

 山田宏哉記

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 2010.12.23 記事一覧へ戻る 文筆劇場・ト