ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2819)

 ヨーロッパ中世から何が見えるか

 堀米庸三(編著)『中世の森の中で』(河出書房)をテキストにした読書会に参加する機会がありました。初版は1975年になります。

 予め断って置くと、本書は残酷な記述が満載です。幾度となく殺戮や略奪の場面が登場し、しかも「目を抉り取った」とか「指を切り落とした」などと詳細に記述されています。こういう描写が嫌いな人には、決してお勧めはできません。

 もっともそれは、ヨーロッパ中世が、それだけ緊張度の高い社会であったことを反映してのことでしょう。

 但し、中には割と「なるほど」と思わせる記述もあります。

 [引用開始]

 中世の人々は、裸で寝た。夜着をつけて寝たのは、聖職者だけである。病院のベッドでも、病人はすべて裸で寝かされ、しかも男女の区別なしという、むしろ現代の男性にとっては大変に結構な、羨ましいくらいの状態であった。

 貴族の場合は別として、庶民男女の愛の営みは、夜のベッドでよりは、昼間の戸外でなされることが多かった。(略)麦畑のなかに入れば人目につくこともなかった。(略)

 男女の愛を描いた版画を見ると、バックに16世紀のものは自然風景が、17世紀のものは家具調度品が描かれ、両時代のコントラストは著しい。(『中世の森の中で』P73〜74)

 [引用終了]


 こういう細かい生活習慣の部分は、なかなか記録に残りにくい。当時の人々にとって「当たり前」のことだからです。

 また「魔女狩り」で有名な「魔女」とは何をしていたのか。実は「避妊と堕胎」をしていたらしいことがわかったことも本書を読んだ収穫でした。

 ヨーロッパ中世はよく「暗黒時代」と称されることがありますが、具体的に言えば「治安が悪い。食糧がない。平均寿命が短い」ということでしょう。

 また、どうやら20歳以下が社会の中に占める割合が半数近く、情緒不安定な若者たちが社会の中核を占めたため、混乱に拍車がかかったようです。

 もちろん、当時の人は「自分たちは惨めな生活を送っている」という自覚はなかったと思いますが、現代社会の暮らしやすさとは比較になりません。「昔はよかった」という言葉がノスタルジーでしかないことを例証する良い例との言えます。

 さて、人類史にはいくつもの大きな転換点があります。

 「火」の使用。狩猟生活から農耕生活への転換。エジプトのピラミッド建設。「神」の発明。「文字」と「貨幣」の使用。「国家」の成立。活版印刷の発明。産業革命。

 ヨーロッパ中世はどちらかと言えば、1000年にも及ぶ"停滞期"に当たります。

 個人的には、人類史の転換点に起きた出来事は、いわば"突然変異"であったと思います。たまたまそれが生き残り、のちの歴史のメインストリームを形成していったのでしょう。

 個人の人生においても、大きな転換点は、たんなる偶然の重なりだったりするものです。ヨーロッパ中世に注目すると、そんなことを考えさせられます。

 学校の歴史教科書で学習するのは「政治史」が中心で、「庶民の生活」にはあまり触れられていません。しかし、ビジネスのアイディアに繋げるなら、歴史は「生活史」を中心に勉強するのが得策ではないかと思います。

 そして何より、つくづく現代日本に生まれてよかったと思います。

 (以上、1400字)

 山田宏哉記

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 2010.12.23 記事一覧へ戻る 文筆劇場・ト