ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2820)

 書籍『ランドラッシュ 激化する世界農地争奪戦』を読む

 NHK食糧危機取材班が著した『ランドラッシュ 激化する世界農地争奪戦』(新潮社)を読了しました。

 NHKでは、NHKスペシャルとして「ランドラッシュ 世界農地争奪戦」という番組を2010年2月11日に放送しています。重要な問題を提起している番組で、その概要は僕も「映像起こし」によって既に紹介しました(「NHKスペシャル『ランドラッシュ 世界農地争奪戦』覚書」を参照のこと)。

 番組として放送したものを改めて書籍として出版する意味は何か。初版は2010年10月30日です。「番組では放送できなかった重要な『何か』がある」とピンと来ました。果たしてその通りでした。

 ですので今回は「番組では放送不可だった重要部分」を紹介しておきましょう。

1.ウクライナで農地を経営するランドコム社。農地を監視するために自動小銃で武装した"傭兵"を雇っている。その数60人。同社CEOのリチャード・スピンクスは傭兵を雇う理由を「マフィアがやってくるから」と説明している。

 さらに言うと、スピンクスはイギリス陸軍などの兵士900人を雇い、農業に従事させている。理由は「軍人は規律を守るから」。対照的にウクライナの農民は「アルコール依存症で使い物にならない」という。

 もっとも、ランドコム社でも多少はウクライナ人を雇っている。しかし、スピンクス曰く「彼らはよく盗むので監視する必要がある」。そこで行うのが「おとり捜査」。トラクターを運転するウクライナ人に「燃料の横流し」を持ちかけ、依頼に応じた者を即刻解雇する。

2.ロシア沿岸部で農地を買い漁るニュージーランドの実業家、マーチン・テート。部下のオフレコ発言「ほとんどの地主は、耕作意欲ゼロ、おまけにアルコール依存症、みるからに落ちぶれた連中ばかりだぞ。そいつらとは、まともな会話もできないんだ」(P122)

3.韓国の李大統領がロシア沿岸地方の開発に執念を燃やす理由は、ロシア沿岸地方を"韓国民族の領土"だと思っているからである。また、韓国では1997年の通貨危機以後、事業の"選択と集中"を進め、自国の農業は切り捨てた。

4.番組でも明言されていなかったのが、「本当に食料は足りなくなるのか」という点。この点について、確かに諸説あり、本書は「分からない」という立場を取っている。その上で「重要なのは、どちらが正しいのかこの論戦に決着をつけることではなく、食料が間もなく足りなくなるかもしれないという危機感に基づいてすでに世界が動き出しているという事実だ」(P30-31)」と記述している。

5.タンザニアで何の保障も1万人が強制移住させられたナマワラ村。ノア副知事のオフレコ発言「農民たちは、そもそも国から許可を得ずに違法に住み着いている。それなのに、外国企業が進出してくることで、自分たちの使っている土地が金になると知ったとたん、立ち退きを拒否し始めた。彼らの目的は金だよ。金を得るいいチャンスだと思っているだけだ」(P196)

6.ランドラッシュに関する取材は、「取材拒否」される場合が多い。「新植民地主義」の色彩が強いためとされる。企業だけでなく、国家も情報を表に出したがらない。どの企業も海外での農地獲得が国際的に評判が悪いことを十分にわかっている。

 番組で紹介された韓国(企業)は取材に応じただけマシで、破竹の勢いでアフリカでの"領土拡大"を目論む中国などは水面下で何をやっているのかほとんど不明だ。

7.食料危機という現象は、アメリカの穀物戦略(中でもアメリカの国策会社と化している穀物メジャーであるカーギル社の果たしている役割が大きい)によって形作られた「食料システム」が綻び始めているということに他ならない。

 言うまでもなく、最も重要なのは項番7でしょう。

 本書を読めば、番組の取材班が最も訴えたかったことは"アメリカの穀物戦略に基づいた「世界の食料システム」そのものが病巣に犯されている"という点であることは明らかです。しかし、さすがにこれは各種の"政治的理由"で番組として放送できなった。

 本書が番組終了後に出版された理由。それは番組と本書を突き合わせて比較すれば、自ずと明らかでしょう。

 (以上、1800字)

 山田宏哉記

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 2010.12.23 記事一覧へ戻る 文筆劇場・ト