ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2826)

 シンガポールの"外国人労働者問題"を考える

 シンガポールの外国人労働者受け入れ政策は、NHKスペシャル取材班(編著)『沸騰都市』(幻冬舎)の記述をまとめると、下記の表のようになっています。



 シンガポール首相のリー・シェンロン氏は、NHKの取材に対して、外国人労働者の受け入れに関して、次のような考え方を述べています。

 「21世紀の世界は知識が経済を牛耳る時代です。人材をどれだけ確保できるかが、国家の持続可能な競争力を決定します。いくら資源を持っていたとしても、それが枯渇すれば終わりです。人材にはそうした限界はありません。優れた才能を一人でも多く集めたいですね。」(『沸騰都市』P375)

 「外国人はバッファー(調整弁)です。彼らは経済が縮小するときは削減されます。去っていくのが自然なことです。それでシンガポール人への不況の影響が少なくてすむのです。私はシンガポールの有権者に選ばれました。自国民の利益を優先するのは当然です」(『沸騰都市』P405-406)


 また、"妊娠検査"については『日経ビジネス』2006年8月21日付けのインタビュー記事「リー・シェンロンが語る 金融と移民が国を潤す」でリー・シェンロン氏がその考え方を語っています。

 [引用開始]

 「家政婦だけでなく、労働許可を得て国内で就労するすべての労働者に妊娠検査を実施しています。なぜなら、シンガポールは安い労働力が無限にある地域の真ん中にあるからです。」

 「彼らがシンガポールに来て、子供を産み、住み続ければ、やがて無数の人がやってきて圧倒されてしまう。だから明確なルールを作っています。シンガポールに来て働くことは認めるが、許可なく結婚することはできないし、シンガポール人と同棲し、妊娠したら労働許可を取り消す。そうしなければ50万人の外国人労働者を受け入れることはできません。」(『日経ビジネス』2006年8月21日付)

 [引用終了]


 論理的に明快ですが、内容的には「人権侵害」と呼ばれても無理はないところがあります。

 実際、シンガポールは"明るい北朝鮮"と呼ばれることもあるようです。しかし、それがほとんど問題にされることがないのは、経済成長という結果を出しているからに他ならないからでしょう。

 既にシンガポールは、ひとりあたりのGDPで日本を上回っています。国際競争力も強い。

 おそらく現実的には、「外国人労働力の受け入れ」と「移民問題の抑制し、自国民の利益を守ること」を両立させるためには、シンガポールのようなやり方しかないと思います。

 つまり、シンガポールのように、高度な知的人材を徹底的に優遇する一方で、単純労働者を冷遇する。単純労働者には、自国民との結婚も許さない。人道上の問題はありますが、世の中、綺麗事だけでは回らないことも重い事実です。

 日本でも今、外国人労働者の受け入れが盛んに議論されています。しかし、上記のような問題に直面したとき、日本人にタフな決断ができるのか。

 日本の政治家で「妊娠が発覚した低賃金の外国人労働者は、本国に強制送還せよ」となどと主張できる人は皆無でしょう。しかし、本気で外国人労働者の受け入れを考えるなら、必ず、こうしたことが問題になります。

 シンガポールの外国人労働者問題への賛否はさておきます。それでも、日本の外国人労働者受け入れ政策を考えるとき、シンガポールの事例が貴重なケーススタディになることは間違いないでしょう。

 (以上、1500字)

 山田宏哉記

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 2010.12.26 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ