ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2832)

 安宅和人(著)『イシューからはじめよ』覚書

 安宅和人(著)『イシューからはじめよ』(英治出版)を読了しました。その覚書は以下の通りです。

 「プロフェッショナルにとって、バリューのある仕事とは何か?」

 本書の内容は、その問題提起と解答に尽きます。

 さて、あなたは上記の問題提起を「答えを出すために、取り組む価値がある課題」だと思うでしょうか。

 本書で言うイシューとは「答えを出す必要性の高い問題」であり、「イシューからはじめる」とは、簡単に言えば「価値ある問題提起からはじめる」ということです。研究者で言えば「研究テーマを選ぶ」という段階がこれに相当します。

 この"イシューを見極める"部分が、決定的に重要です。

 実はここで間違えると、その後に続く作業がすべて無駄になる。にもかかわらず、この部分の重要性を骨身に沁みて理解している人は少ない。

 世の中にはそれだけ、「どうでもいい問題」に一生懸命取り組み、人生を無駄にする人が多いということになります。

 「仕事をしているフリ」をするなら、それでもいいかもしれませんが、それが「価値ある仕事」でないことは明らかでしょう。

 まず、"イシューを見極める"ためには何をすべきか。そして、その問に対して質の高い解答をどう用意していくか。本書ではその戦略・戦術論が展開されています。

 つまり、著者は「知的生産の全体像」を体系的(演繹的)にまとめ上げています。そして、各論に関しては「これ以上、簡単にできないほど」平易かつ明瞭な表現で書いています。

 「あいつの仕事にはセンスがある。素質がある」と思うことがあります。これらは通常、ビジネスの現場においては、「暗黙知」と呼ばれる領域の話です。

 暗黙知というのは、言語化が不可能な知識のことです。だから、容易に習得することはできない。多くの場合、実戦経験を通してしか、修得することはできません。

 本書は、そのビジネスの現場における暗黙知を「よくぞ、ここまで言語化した」と言える程、明瞭に言語化しています。されに言えば、本書の著者は、抜群に頭が切れます。実務経験も申し分ありません。

 もちろん、これまで暗黙知とされていた領域が言語化されたからといって、直ちにその技能が身に付くわけではない。それでも尚、ビジネスパーソンが日々の仕事をする中で感じる「漠然としたモヤモヤ感」が「明瞭な問題意識」に変化することの意味は、とてつもなく大きい。

 知的生産に関する分野の書物には、梅棹忠夫(著)『知的生産の技術』(岩波新書)や外山滋比古(著)『思考の整理学』(ちくま文庫)といった著名なベストセラーがあります。いずれも内容的には、現代のビジネスパーソンにとっても、充分に通用するものです。

 それでも尚、この2冊両方を読むよりも、『イシューからはじめよ』1冊を読む方が遥かに有益だと断言できます。

 本書は、知的生産に関する日本語書籍の中で、おそらく最高傑作です。
 
 (以上、1200字)

 山田宏哉記

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 2010.12.31 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ