ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (2952)

 判断と避難行動の明暗

 今回の震災と原発事故に際して、判断と避難行動いかんで、大きく明暗が分かれたように思います。

 当然ながら、津波と原発からの避難方法は同じではありません。

 津波に関しては、一刻も早く避難することが必要でした。今回の地震発生直後の映像等を見ると、大津波が来るというのに、あまり急いで避難しようとはしない人たちの姿が目に付きました。

 もちろん、後知恵でこういう指摘をするのは酷です。それでも、「避難が遅れた」故に亡くなった人が多かったことは真摯に受け止めるべきでしょう。

 NHKスペシャルの「メガクエイク」特集で実験が紹介されていましたが、津波はたとえ高さ50cmであっても、足に200kgの力がかかります。成人男性でもとても立っていられず、簡単に押し流されます。

 僕たちは「数十センチの津波が到来」と言われても大したことだと思いませんが、津波は数十センチのものでも直撃を受けたら生命が危ないでしょう。

 だからこそ、津波警報に対しては、着の身着のままでも避難した方がいい。「財産を取りに戻る」というのは厳禁です。

 福島第一原発の事故からの避難に関しては、対照的です。

 原発事故に関して言えば、そもそも「原発近隣に住む」という時点で、一定の覚悟が必要でした。いくら国や電力会社が「絶対安全」と言おうと、重大事故が起きた際の退避のシナリオを考えておく必要はあるでしょう。

 おそらく最良の判断は、焦って避難せず、荷物や財産をまとめて移住覚悟で避難した場合。次善の判断は一旦避難したが、貴重品を取りに戻った場合です。

 放射線による健康被害はウランのバケツリレーで臨界を起こしたりしない限り、遅効性だと考えられます。だから、焦る必要はない。

 「原発は絶対安全」という言葉を信じて原発近隣に住み、事故後の緊急避難指示で慌てて家を飛び出し、「一時帰宅もするな」という指示に従った人は、馬鹿をみました。

 最悪の判断ミスは、無理に避難し、避難先や避難途中で死亡した場合でしょう。

 避難半径に関しては、色々な事情が絡んでいることは明らかです。

 半径20kmを避難対象地域とすると、その面積は約1200K(円周率3で計算。海を含む)。これを半径30km避難に変更すると面積は約2700K屐0豕い1500K崛える。半径80km避難とすると、面積は19,200K屐

 単純な話ですが、避難対象の半径を広げると、それだけ損害賠償の費用がかさみます。政府や電力会社の視点で見ると、なるべく避難半径を広げたくない。半径20〜30kmを「自主避難」にするのはその現れでしょう。

 私見ですが、長期間の避難生活によるストレスと20マイクロシーベルト/時の放射線被曝を天秤にかけたら、おそらく前者の方が遥かに身体に悪いと思います。

 避難生活で死者や健康被害が出ても「国の責任範囲外」ですが、放射線で少しでも健康被害が出たら重大な責任問題になります。

 国や東電にとっての至上命題は「放射線による死者・健康被害を出さないこと」であり、「長期間の避難生活によるストレスで死者や健康被害が出ないこと」の優先順位は低いようにみえます。個人の視点からすれば、両者を天秤にかける自衛手段が必要でしょう。

 いずれにせよ、非常時には判断ミスが致命傷になる。今回の震災と原発事故は、それを残酷な形で示すことになりました。

 (1400字)
 
 山田宏哉記

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 2011.4.3 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ