ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (3039)

 日本企業で働く希望

 社会人になって間もない頃、「外資系のコンサルタント会社に勤めている」という方からメールを頂いたことがあった。趣旨を一言で言うと「ぬるま湯の日本企業で働くのは馬鹿げている。成果主義も徹底していない」というものだった。

 特に言い返すことはしなかったが、たぶん、僕は悔しかったのだと思う。

 この先、自分が日本企業に勤め続けても、例えば年収2,000万円以上を稼ぐのは難しそうだった。社会に出て数年で、年俸が数千万円に達する人がいる一方、年収300万円の日本企業に勤める人もいる。

 件のコンサルタントの眼には「日本のサラリーマンは、成果主義が徹底していない環境で、大して情熱も志もなく働いている」と映ったようだった。そして残念ながら、当時の僕には、この認識は「的外れ」とは言えないような気がした。

 それ以来、僕も日本企業で数年働いた。そして、徐々に日本企業の良さが見えてきたことも事実だ。

 外資系企業と比較した時、日本企業の良さとは何か。それはたぶん、仕事そのものやりがいだと思う。

 一般に日本企業では、現場に裁量があり、担当レベルでも仕事が充分におもしろい。組織の末端で働くなら、トップダウン型よりボトムアップ型の組織の方が、断然、実力がつく。

 日本企業には今でも「仕事の報酬は仕事」という価値観が残っている。成果に対しては「次の仕事」で報いる。だから、仕事にやりがいが生まれる。

 また、職務の範囲もそれほど厳密には決められていないので、自分のやりたい仕事を手がけやすい。

 日本では特に仕事がない「閑職」は、恵まれたポジションどころか、無能の象徴であり、軽蔑の対象となる。

 対照的に、例えば、外資系企業の日本支店には、裁量と権限がないことが珍しくない。何事もアメリカの本社にお伺いを立てて、物事を決めないといけなかったりする。こうなると、日本支店は単なる「メッセンジャー・ボーイ」の役割を果たしているだけとなる。

 多くの日本人は根がお人好しなのか、現場で汗水垂らして働く人を見下す事ができない。積極的に損な役回りを引き受ける人を悪く言うことができない。とはいえ、これは日本人の誇るべき気質だと思う。だからこそ「現場」でやりがいのある仕事をするなら、やはり日本企業が良いと思う。

 「成果に応じた報酬が支払われないのは、我慢ならない」という意見は尤もだが、僕自身は仮に自分よりも成果の低い人が高い報酬を得ていても、特に気にならない。高い成果で金銭的な報酬は低くても、その差分は大抵、金銭以外の形(評判や次の仕事)で回ってくるからだ。

 信頼できる仲間がいて、仕事にやりがいがあり、世の中の役に立っているという実感がある。震災以後、そのありがたみを噛み締めた人も多いと思う。報酬が高いのに越したことはないが、「カネの問題ではない」のもまた確かだ。

 もちろん僕は、「外資系のコンサルタント会社かインベストメント・バンクで大金を稼ぐんだ。年功序列の日本企業なんて話にならない」という認識の学生に、日本企業を勧めたりはしない。

 それでも僕は、日本企業で働くことに「希望はある」と思っている。

 山田宏哉記

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 2011.8.29 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ