ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (3058)

 なぜ、震災ボランティアを語るのか
 
 全半壊した家々のあいだを潮風が吹き抜ける。鼻を突くような腐敗臭が漂い、防塵マスクで息が苦しくなる。汗まみれの作業着に、指に食い込む土嚢袋。地面の歪みが足の裏に伝わってくる。

 そして、家を失っても笑顔を見せる被災者がいる。

 きっと震災の被災地であれば、どこにでもあるような物語。僕は敢えて、それを語りたい。

 震災後、津波が家々を流していく映像が流れ、自衛隊員が必死の捜索を続ける様子が報道された。福島第一原発が水素爆発を起こす映像が流れ、原発作業員が懸命の作業を続ける様子が報道された。それは、どこか現実味を欠いた"あちら側"の出来事だった。

 僕たちが震災で失ったもうひとつのもの。それは「自分にもできることがある」という確かな手応えだった。僕たちは当事者であるにもかかわらず、震災を"あちら側"の出来事と考え、「誰かが何とかしてくれる」と考えるようになった。

 そして人は、"あちら側"の出来事を次々と忘れていく。

 震災直後、「自分にできることをしたい」と思っても、できることは限られていた。僕は平日、会社勤めをしていて、被災地に出掛ける余裕もなかった。

 報道を通して、自衛隊や原発作業員の活躍がしばし伝えられた。"自由業"に近いカメラマンや物書きたちが、被災地に乗り込んでいることも知っていた。そんな中、僕は何もできずにいた。「仕方ないじゃないか」と僕は自分に言い聞かせた。

 その後、僕は約半年間、毎週末、高速バスで福島県に赴き、震災ボランティア活動をすることになった。動機はごく個人的なものだ。

 自分たちがあくまで「脇役」に過ぎなかったことは、よくわかっている。僕たちは大抵、普段は別の仕事を持っていた。平日は本業に打ち込み、週末になると自費で被災地に足を運ぶ。そんな中途半端な存在だった。

 従事したのも、瓦礫撤去や側溝清掃のような「誰にでもできる作業」だ。極端な話、何も自分が行く必要はなかった。

 僕たちは、特別な人間ではないし、それほど特殊な経験をしたわけでもない。それでも僕は、あくまで等身大の僕たちが紡いだ物語を語りたい。

 なぜか。それは"あちら側"の物語ではなく、"こちら側"の物語だからだ。僕たちは、震災ボランティアを通して、震災や被災地の現実を"あちら側"から"こちら側"に手繰り寄せた。

 そこには確かに、人生観を変えるような、かけがえのない一瞬があった。

 人間はそれほど善意に溢れているわけではない。だけど、それほど捨てたものでもない。そんな当たり前のことに気付かされた。

 瓦礫が撤去された更地に、潮風が舞う。記憶に刻んだ光景の中には、いつでも戦友たちがいる。

 山田宏哉記

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 山田宏哉記

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 2011.10.11 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ