ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (3068)

 制約の中の決断

 ビジネスの世界では「正しいか、間違っているか」にこだわるのは、時に有害になる。

 資源は限られている。色々な制約がある中で、ベターな決断を下し、物事に決着をつけていくしかない。これが身に付いていない人は、仕事の進め方が甘いし、たぶん基幹部分の仕事を手掛けていない。

 もっとも、社会人でも、仕事やプロジェクトを完遂し、成果を出さなければならない立場にいる人の気持ちを理解できる人はあまりいない気がする。ギリギリの決断に対して、評論家みたいに「もっとこうするべきだ」みたいな言い方をされると、やはり気に障るものだ。

 コストや時間に制約がある中でした決断に対して、お金や時間が無限にある前提で批判するのはルール違反だ。「もっと議論を尽くすべき」とか、たぶんいつでもその通りなのだ。僕たちの人生が無限で、僕たちの人件費が無料ならね。

ビジネスにとって「機を逸する」のは致命傷になる。納期を守らなければ、次はない。「もっと慎重な検討が必要」みたいに「失敗しないこと」ばかりに意識が向く人は、先手を取られて結局は敗北する。

 「決断するのはマネジャー以上の役割」と考えている若手の担当者は、何か根本的な勘違いをしている。組織の運用上、マネジャーが決裁を下す仕組みになっていても、現場の担当者が決断を回避していては、物事は回らない。

 具体例として、「ビジネス文書の確認方法」を挙げておこう(当然だが、これは担当者の職務に含まれる)。実は、一口に「文書を確認する」と言っても、実務レベルによって、確認するポイントが全く違ってくる。

 レベルの高い順に並べると下記のようになる。社会人になったら、まずこのことに気付かなければならない。

0.ある文書が必要か否かの判断
1.書くべき内容が簡潔に表現されているか
2. 他の文書との整合性が取れているか
3. 記載された内容に誤りが含まれていないか
4. 誤字・脱字が含まれていないか

 現代においては、項番4はコンピュータに自動でやらせるべき作業だ(できれば項番3も自動でできるようにしたい)。

 人件費を考慮すると、ビジネスパーソンが人力で「誤字・脱字探し」をするのは、極力、避けたい。これは学生アルバイトでもできるレベルの作業だ。実務の腕を磨くなら、「誤字・脱字、内容誤りを防ぐ仕組み作り」の部分に注力する方が良い。

 何度でも強調するが、時間は有限なのだ。

 項番1、2の確認と判断ができて初めて、「実務で飯を食っている」と言うのが許されるレベルだと僕は思う(このレベルに達していない社会人は、「組織の看板」で飯を食っている)。

 更に言うと、注目して欲しいのは、項番0の「ある文書が必要か否かの判断」の部分だ。

 この判断には一定の責任とリスクが伴うので、現実には前例踏襲が基本になりがちだ。普通の人はやりたがらないので、実は価値が高く、成果を出しやすい部分でもある。

 攻めの姿勢が強いビジネスパーソンがビジネス文書の確認をするなら、この部分を狙うのが得策だ。

 若手のビジネスパーソンは「自分には職位や権限が足りないから、話を聞いて貰えない」と考えがちだが、実はそうではない。リスクと責任を背負って発言しないから、まともに聴いて貰えないのだ。リスクと責任を背負って決断すれば、それは大抵相手に伝わる。

 おそらく僕自身は、組織人としては「リスクと責任を背負って、決断する」という能力が高い方だと思う(自己保身を優先すれば、実名でウェブサイトを運営したりしない)。だからこそ、コンピュータや新興国の人材に仕事を奪われる心配はしていない。

 いずれにせよ、今後、単なる事務処理屋の人材価値が下がるのは明白で、それは「事務処理の効率を上げる」といったレベルの改善では全く太刀打ちできない。

 「制約がある中で、損益と顧客満足に貢献する決断ができること」。これが日本企業で働く基幹人材となるための、必須条件だと僕は思う。

 山田宏哉記

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 2011.11.9 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ