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 古市憲寿(著)『希望難民ご一行様』覚書

 古市憲寿(著)『希望難民ご一行様』(光文社新書)を読んだ。「著者のセンス、才能、行動力に嫉妬を覚えた」というのが正直な感想だ。

 本書の内容は、「日本経済新聞」2010年8月25日付夕刊にて中沢孝夫氏が簡潔に紹介している。

 [引用開始]

 古市は「退屈な日常が続いていくことに『あきらめきれない』希望難民」を乗せた「現代的不幸の受け皿」としての「ピースボート」に乗船し、「自分の居場所」を探す若者たちの心象をくっきりと描く。そこには「砂漠の中のオアシス」である「承認の共同体」にたどり着く、争いを好まない若者がいる。

 「いい会社」や「いい人生」を「目指すようなキャリアトラックから降りて」も「そこそこ楽しい暮らしを送っていける」と思っている彼らに、がんばれ希望を失うな、社会の側にも責任がある、と大人たちが説くのは、単なる迷惑でしかないのだ。「彼らを無理に標準のキャリアトラックに戻す必要はない」と古市はいう。

 「希望の格差が広がっている」とする論者もいるが、よけいな心配、大きなお世話だ。25歳の古市は、どのような状況でも「やる人はやる。たとえ一人でも」と本書を結んでいる。(「日本経済新聞」2010年8月25日付夕刊 )

 [引用終了]


 ちなみに、個人的に僕が本書で気に入ったのは、以下のようなフレーズだ。非常に鋭いと思う。

 [引用開始]

 ナショナリズムはお金にはならない。いくら「日本を愛している」と叫んでも、日本政府がお金をくれる訳ではない。それでも人びとがナショナリズムに走るのは、「癒し」を求めて、つまり承認の欠如を「日本」という居場所によって埋め合わせようとしているからだ。(P40)

 つまりピースボートという「承認の共同体」は、社会運動や政治運動への接続性を担保するどころか、若者たちの希望や熱気を「共同体」によって放棄させる機能を持つといえる。(P244)

 [引用終了]


 ピースボートの「世界一周の船旅」のポスターは、街中で結構見かける。その文言は、どこか胸に迫るものがある。それはたぶん、自分の希望と目の前の現実に折り合いをつけきれていないからだと思う。

 現実にはピースボートは「あきらめの舟」で、船旅の後、多くの若者は低所得労働者として日常に埋没していく。「世界一周の船旅」は地に足をつけた大人になるための、一種の通過儀礼なのだろう。

 ハッキリさせて置くと、僕自身は著者を含めて本書に登場する"若者たち"には殆ど共感しない。「住む世界が違う」と言ってしまえばそれまでだが、実際、そういうことだと思う。

 僕が本書に共感しない理由は、僕は当事者として、まだ「あきらめていない」からだ。傲慢で、過剰な自信を持ったままで、それでも仕事では結果を出している。自分の力で組織も変えられると思っている。

 もっとも、擬似的にピースボートの船旅の様子がわかり、若者たちの乗船前と乗船後の心象風景の変化が理解できたことは非常にありがたい。

 何しろ、実体験しようと思ったら、100万円以上かかる(それでもピースボートは格安)。賛否はさて置き、読んで損はない。

 山田宏哉記

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 2011.11.28 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ