ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (3082)

 目の前にある仕事論

 仲間と企画した革新的なイベントが成功をおさめた。

 イベント終了後の反省の場で、印象に残ったことがある。この調子で運営すれば手堅い成果が見込めるのに、企画者はもう運営を他人に任せることを考えていたことだ。

 ゼロの状態から「垂直立ち上げ」をするのと、既に存在している業務フロー等を改善しながらルーティンワークを回すのでは、必要な能力が相当違う。

 ふと、圧倒的な成果を出すためには、自分は付加価値の高い仕組みの設計に集中して、オペレーション(運用)やメンテナンス(保守)の実作業は他人に任せる、という姿勢が必要な気がした。

 「仕事を選り好みせず、目の前のことに集中しろ」。そんな言葉をよく聞いてきた気がする。

 この言葉は間違っていない。僕自身、どのような仕事にもおもしろさを見出すようにしてきたし、ルーティン・ワークに育てられてきた。現場に立たなければ、何も始まらない。

 但し、その結果気付いたのは、「目の前の仕事に集中する」ことが隠してしまう長期的な視野に基づく仕事の大切さだった。

 「目の前の仕事」に真摯に取り組むことは大切だ。「生命は大切」みたいなもので、誰も反対はしない。そして、「誰も反対しない」からこそ、必ず無意識の甘えが忍び込む。

 「目の前の仕事をする」などと殊更に強調する人は、暗に「目の前にない仕事」や「表面化しない問題」には対応しない、とアピールしている。

 仲間と企画して成功させたイベントは、決して「目の前の仕事」ではなかった。

 ビジネスパーソンの中には、自分に言い聞かせるように「目の前のことをやるしかない」という趣旨のことを言う人がある。一見、立派な覚悟を持っているように見える。

 但し、本当にそうか。それは、ラディカルな思考と戦略性の欠如を覆い隠すための方便ではないのか。単に「場当たり的」なだけではないのか。

 ここはシビアに問うべきところだ。

 顧客に対する契約履行やコンプライアンスに関わること以外であれば、「やるしかない仕事」というのは、案外少ないと思う。例えば、社内資料の作成であれば「やるしかない仕事」とは言えず、投下時間と期待効果を天秤にかけて判断するべきだろう。

 報酬が上がる程、企画や仕組みの設計といった仕事の比率を上げ、運用保守のようなルーティンワークの比率を下げる必要がある。

 目の前の問題に取り組むのは、犬も人間も同じだ。劇的に差がつくのはむしろ、長期的な戦略に基づく「目の前にない仕事」の方なのだ。

 山田宏哉記

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 2011.12.15 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ