ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (3089)

 大野更紗(著)『困ってる人』覚書

 大野更紗(著)『困ってる人』(ポプラ社)を読了した。コミカルに書かれているが、大変な内容だった。

 人一倍、活動的だった著者が、自己免疫系の難病にかかり、その中で体験したことや感じたこと(麻酔なしの手術のシーンなどは、本当に痛そうだ)が、率直に描かれている。

 人が生きることの重みと大変さを、改めて痛感させられる。

 誰しも、高額の医療費が必要な病気で入院することになったり、身体が自由に動かせなくなる可能性はある。そんな時、どう生き残るか。本書はその示唆に溢れている。文句なしの傑作だ。

 本書を読んで、僕は自分自身のささやかな入院経験を思い出した。

 大学院生の頃、非常に負荷とストレスの大きな生活を送っていたため、社会人になる頃には、もはや身体がボロボロだった。

 地下鉄の中で、急に視界が白黒になって、意識が遠のいたときには、「死ぬかな」と思ったものだ。後ろに壁があったので、幸い倒れずに済んだ。世界に「色」が戻るまでは、生きた心地がしなかった。

 一番危なかった時期は、平時の安静にしている状態で脈拍が130くらいあり、徒歩10分の距離も歩いて移動できなくなってしまった。何もしなくても足が攣ったりして、満身創痍だった。あとは「倒れる日」を待つのみだった。

 幸運だったのは、休日に医者の検査を受けられたことだ。即刻入院が決まったが、検査がなければ、僕はハードワークを続けるつもりだった。

 入院が決まった時、僕は「これでもう、人生終わりだな」と思った。「まだ、何も成し遂げていないのに死ぬのか」という思いと「これから、どうやって生きていけばいいのだろう」という思いが交錯した。

 医者は世事に疎かった。死にそうな身体で心配になったのは、やはりお金のことだ。1ヶ月入院するだけで治療費は軽く100万円を超えた。月給20万円程度で働いて身体を壊すのは、本当にバカバカしいと痛感した。

 入院患者が本当に心配しているのは、「高額の入院費用をどう調達するのか」という点と「退院後、どうやって生計を立てるのか」という点だと思う。

 僕の場合、幸い元の職場に戻ることができたが、そういう人ばかりでもないだろう。

 若者が病気で死にかけて入院することになった場合、「きっと良くなるよ」とか言われても、あまり嬉しくなかったりする。「退院後の世界」に広がる絶望が見えてしまうから、むしろこのままずっと、病院内に留まっていたいような気さえする。少なくとも、僕はそうだった。

 僕が社会人として体力的にまともに働けるようになったのは、この退院以後のことだった。

 現代日本においても、病気で長期入院することになったら、現実には「人生終わり」に近い。

 自分の病気の治療のために、各方面に頭を下げて治療費や入院費を調達し、退院したら従来以下の労働条件で働く。「そこまでして生きたいか」と問われたら、答えは微妙なところだ。

 本書を読んでふと、そんなことを思い出した。

 山田宏哉記

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 2011.12.27 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ