ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (3090)

 「誰にも相手にされない"あの人"」との距離の取り方

 以前、ある飲食の席で、ある方から「まともに"あの人"の相手をしちゃダメだ」と忠告を受けたことがあった。

 "あの人"とはパフォーマンスが低くて、もはや周囲から相手にされていない人のことだった。僕は当時、まだ新しい環境で新参者の段階で、組織や人間関係の力学をぼんやりとしか把握していなかった。

 僕は、新参者として"あの人"と一緒に仕事をすることが多くなっていた。

 "あの人"は目の前のニンジンのことしか目に入らず、仕事の目的も理解せず、典型的な「上に言われたことをやるだけ」の人だった(実際には、言われたこともできていなかったのだが)。

 冒頭の助言は、僕が"悪い影響"を受けることを心配してのものだった。"あの人"と一緒にいると、僕まで同類と見做されることに配慮してくれたのかもしれない。

 いずれにせよ、僕は"あの人"から仕事に必要な情報を入手した上で、次第に距離を置くようになった。振り返ると、この助言は極めて的確だったと思う。

 「類は友を呼ぶ」とはよくぞいったもので、"あの人"が「仲がいい」と自慢していた人は、決まって微妙な顔ぶれだった。振り返ると、彼はきっと傷を舐め合う仲間を求めていたのだと思う。一時期、まだ事情に疎かった僕は、それに取り込まれそうになったのだった。

 組織の中での人間関係の「気が合う、気が合わない」は仕事の能力と切り離せない。パフォーマンスが高い人の周りには仕事ができる人が集まってくる。一方、パフォーマンスが低い人はそういう人同士で群れている。

 これは表向きの地位や肩書きとは必ずしも関係ない。

 組織で働くのであれば、新参者はまず、職場のキーパーソンと「相手にしてはいけない人」を把握することが大切だと、僕は改めて痛感した。

 僕も余裕がなかったので、内心、自分より仕事ができない"あの人"をバカにしていた。

 時は流れた。

 僕は相変わらず、仕事+勉強に毎日16時間を投下し続けた。そして、仕事では圧倒的な成果を出せるようになった(自己評価)。

 一方、"あの人"は停滞したままで、いまや"崖っぷち"にいる。率直に言って、"あの人"には仕事がない。

 僕はひとつのことを決めた。

 別に僕がやる必要があることではないけど、"あの人"の仕事を本人に代わって考えることにしようと思う。多少は、他人に手を差し伸べる余裕ができた。

 自分のこと、自分の組織のことだけを考えるなら、パフォーマンスが低い上に、人間としても見放されている人には「円満に去って貰う」のが最善の解決策かもしれない。もちろん皆、自分のキャリアや生活がかかっているので、綺麗事が通用する世界ではない。

 現実問題として、パフォーマンスが低いままに中高年に達してしまった場合、積極的にその人を雇いたいと考える企業は皆無だと思う。

 本音を言えば、"あの人"が生活の糧を得られるのは、たぶんここしかない。それを思うと、僕が本人の代わりに仕事を考えることも、多少の意味はあると思う。

 将来、仮に自分がリーダーとして組織を率いることになったら「メンバーに飯を食わせる。雇用を守る」という点を、最も大事にしたい。「仕事ができない奴はクビ」というドライな態度では、リーダーは務まらないのではないか。

(もちろん、「自分のことで精一杯」という人は、無理をする必要はない)

 "あの人"に仕事を振り、雇用を守る。本来、僕がやるべきことではないし、どこまで力が及ぶかもわからない。

 それでも、トレーニングの一環として、ささやかな人助けとして、僕は自分にそれを課したい。

 山田宏哉記

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 2011.12.30 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ