ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (3093)

 「キャリアの試練」を振り返る

 正月なので、これまでに経験したキャリア上の大きな試練を振り返り、今後の戦略を考える上での一助にしたいと思う。

 まずは、就職する時だ。出版社の内定が取り消しになり、急遽、IT業界に入ることになった。キャリアとしては、研究者か編集者を目指していたので、正直、挫折と言えば挫折だった。

 民間企業に就職するに当たって、最もセンシティブにならざるを得なかったのは、僕が実名でウェブサイトを運営していたことだ。

 しかも、ウェブの匿名掲示板には訴訟レベルの誹謗中傷が書かれていて、「採用担当者が検索エンジンで僕の名前をチェックしたらアウト」という認識はあった。

 幸い、僕は「エゴサーチ」では撥ねられず、就職することができた。

 入社したら、僕は真っ先に、規則を参照し、業務に関係のないウェブの運営や原稿寄稿、著書の出版などをしても、雇用契約に接触しないことを確認した。

 結果的には良かったものの、これはかなり「危険な賭け」だった。実は、ウェブサイトの運営や雑誌等への寄稿、著書の出版が自由にできるかは、就職するに当たっての最優先事項だった。
 
 通常、この種の情報は、対外的には公表されていない。しかも、採用面接の段階でこの種の質問をするのは、「トラの尾」を踏むリスクがあるので、極力、避けたかった(今の僕なら、これは就職前に確認すると思う)。

 会社によっては、実名でのウェブ活動を禁止しているところもあると聞くから、僕は幸運だった。

(ちなみに僕のウェブサイトだが、公式には一度も会社から言及されたことはない。ツイッターについても同様だ)

 社会人になりたての頃、僕はあまり仕事に身が入っていなかったような気がする。

 大学には引き続き籍を置き続けたし、「研究者になりたい」という気持ちも、どこかで引きずったままだった。土曜日、大学図書館で勉強し、大学院時代の仲間と自主ゼミに参加するのが楽しかった。

 新人の頃、よく「大学(院)で勉強したことを活かせる仕事をしたい」と思ったものだ。当時の僕は見識が浅くて、研究職やエンジニアのような「大学で勉強を活かせる仕事」と単純労働のような「大学での勉強を活かせない仕事」があると考えていた。

 今の知見で補足すると、大学の勉強が「役に立つか、立たないか」という話は、正確には「役に立てるか、立てないか」だと思う。日々の仕事をする上で必須でなくとも、他人の心理や行動、世の中の出来事や潮流を構造的に理解できると、やはり仕事を有利に進められるものだ。

 社会人になってしばらくの間、僕は実務家としての技能を思うように伸ばすことができなかった。専門性も実務を通しては、身に付けることができなかった。勉強は熱心にしていたものの、仕事は受動的に、義務感だけでやっていた。

 転機となったのは、勤務先でも特に経験豊富で、見識のある方から仕事上の助言を頂けるようになったことだ。僕は心の弟子入りをし、その方の助言を参考に仕事をするようになった。すると、それまで無味乾燥に見えていた実務の世界が、急に面白くなった。

 メンターは僕の情報収集能力や文書作成能力を非常に高く評価してくださった。「ここから僕の快進撃が始まった」となればいいのだが、僕には人間関係の調整能力が欠けていて(だから研究者志望だった)、その欠点が足を引っ張った。

 また、僕にはひとつ、ビジネスパーソンとして欠けているものがあった。それは「当事者意識」だ。ウェブで批評をやっていたため、職場でもつい「評論家風情」の面が首をもたげていた。「自分の会社」という意識と責任感が希薄だった。これを改めることにした。

 例えば「PC用のコンセントをどこにいくつ設置するか」といった事柄でも、担当者にとっては重要な問題だ。それまで、自分の担当外のことにはあまり関心がなかったけど、僕はなるべく興味関心を幅広く持つように心掛けた。これは「当事者意識」の涵養に非常に役立った。

 尊敬しているメンターから助言を得られるようになり、更に「当事者意識」を行動に落とし込むようにしたところ、人間関係でつまずくことも減った。その結果、僕は「文書作成能力」という強みに集中し、圧倒的成果(自己評価)を出せるようになった。

 現状に不満がないと言えば、嘘になる。それでも、キャリア上の試練は一旦、超えることができたと思う。

 ビジネスパーソンとして、更なる圧倒的成果を出すと共に、個人としての活動もより充実される。今年は、大きくはこの方針で、日々を生きようと思う。

 山田宏哉記

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