ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (3094)

 なぜ、箱根駅伝は国民的人気コンテンツなのか

 箱根駅伝には、もともとあまり興味がなかった。でも、多くの日本人が熱心に箱根駅伝を見ていたようだ。

 実家に帰省中、TVの画面に映っていたので、何気なしに山場のシーンなどを眺めていた。

 僕の興味の中心は「なぜ、箱根駅伝は国民的人気を誇るコンテンツなのか」という点だった。

 正月番組で流すべきは、厳しいトレーニングを積んだ日本人選手が黒人スプリンターに太刀打ちできずに敗れ去る短距離走の映像かもしれない。そこから「努力や訓練は必ずしも報われない。生まれつきの素質が大切なのだ」という貴重な教訓を得ることもできるだろう。

 そのために考えるべきは「そもそも、箱根駅伝は視聴者に何を伝えようとしていたか」あるいは「人々は箱根駅伝に何を見たのか」という問だと僕は思った。

 私見では、箱根駅伝は「先に教訓ありき」のコンテンツだと思う。

 箱根駅伝の教訓とは何か。それは「組織を背負って走る美しさ」であり、「個人よりも集団を重んじるチームプレーの大切さ」であり、「才能より努力がモノを言うという価値観」だろう。

 箱根駅伝の走者を自分自身の人生に重ね合わせて見る人は多いと思う。だからこそ、その教訓は美しいものでなければならなかった。

 長距離走は短距離走より後天的なトレーニングによって挽回可能だ。長距離走の中でも、駅伝の方がマラソンよりも、集団競技になるためトレーニングの成果が目に見えるものになる。

 およそく、実際は順序が倒錯していて、僕たちは「チームプレーの大切さ」「努力は報われる」という教訓を得るため、箱根駅伝という特殊舞台を必要としたのだ。

 特筆すべきは、この種の教訓は、学校教育との親和性が高いことだ。学校教育は「教育訓練で改善できないこと」には感知しない。

 学校教育は「努力、結果、評価」が明瞭にリンクするよう、極めて人工的に作り上げたシステムだ。そうすることで、若いうちに「努力をすれば、結果を出すことができ、高い評価を得ることができる」という信念と習慣を身につけることができる。

 だからこそ、ビジネスの人事査定に比べれば、学校の成績表は格段にフェアなものになる。

 学校の成績表が勉強の理解度やテストの点数とは全く関係なく、「教師の好き嫌いだけ」で決められていたら学校教育は成り立たない。でも、現実の世の中はむしろそういう世界で、特殊なのは学校教育の世界の方だ。

 その意味では、箱根駅伝もまた、「素質の序列付け」を極力避けており、学校教育の思想と親和的な特殊なシステムだと言える。

 だからこそ、僕は思う。

 箱根駅伝から得るべき教訓は番組制作者が狙っているような「チームプレーの大切さ」とか「努力が報われる」という次元のものではなく、「自分が勝てる土俵を選び、そこで勝負せよ」ではないか。

 日本で正月に放送する競技番組が、素質がモノを言う100M走でなく、箱根駅伝であるのには相応の理由がある。それでも、仮に自分が100Mのスプリントで勝てると踏んだら、迷わずそこに参戦する。

 これこそ、一段と競争が激しくなった時代の教訓ではないだろうか。

 山田宏哉記

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