ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (3096)

 怨念としての職務給・成果主義・雇用流動化

 予てから、民間企業を辞めて著名になった人たちは、どうも勤労観や理想とする人事システム、日本企業の捉え方が表面的に見えて仕方がなかった。

 おそらく、彼らは何かが嫌で堪らなくて辞めたのだろう。だけど、たぶんその怨恨が、現実を見る眼を曇らせている。

 彼らの主張するのは、大抵、「職務給・成果主義・雇用流動化」の3点セットだ。

 ツイッター界隈でも、この考え方を支持する人が割と多いように見受けられる。その理由は「日本経済の活性化のため」というのが常套句だが、僕は内心「本気かね?」と思っている。

 日本企業で成果主義が導入されるようになった目的は、あくまで「総額人件費を抑えるため」であって、「成果主義が社員間の競争を促進し、企業を活性化させる」というのは建前だ。但し、この建前は一定の人々に熱烈に支持された。

 「職務給と成果主義」はいわば「決め打ち」であり、最初の制度設計が肝になる。変化が激しく、事業構造や部署間のパワーバランスも劇的に変わる時代に、「まず、ポジションありき」の職務給では有効に対応できない。

 「職務給と成果主義」が有効に機能するためは、その企業の事業領域が1.狭くて 2.明確で 3.変化しない ことが必要となる。こういう業種・職種は製薬会社のMRとか外資系金融とかごく一部だ。思うに「職務給と成果主義」は殆どの日本企業には適合しない。

 では、なぜ彼らは「職務給・成果主義・雇用流動化」を熱烈に主張するのか。その根底にあるのが、実は怨恨だからだろう。

 「職務給・成果主義・雇用流動化」の主張者たちが本当に望んでいることは何か。それは「かつて仕えた無能な上司が、低い評価を受け、給料を大幅カットされ、いずれ解雇されること」に他ならないと思う。だから、企業業績の向上より、「仕事ができない中高年層を切る」ことが目的と化している。

 現役の組織人でも「職務給・成果主義・雇用流動化」を支持する人は、その理由をよく見つめて欲しい。決して「日本経済の活性化ため」ではなく、「無能な中高年正社員が高給で、気に食わないから」だろう。

 まともなビジネスパーソンであれば、いつ解雇されるかわからない環境では、高いパフォーマンスを発揮できない。失敗が許されなければ、新しいチャレンジもできない。懲罰と恐怖心で他人を管理しようとするのは、奴隷労働の世界だ。

 これで業績が上がると考えるのは、よほどめでたい企業だ。

 おそらく、「職務給・成果主義・雇用流動化」の支持者たちは、「直属の上司に恵まれなかった」のだろう。

 もちろん、組織人なら、「上司に恵まれない」というのは、よくあることだと知っている。そして、年功制の企業であれ、成果主義の企業であれ、定量的に成果を計れる職種以外、現実の部下の人事査定は「好き嫌い」だ。

 人事査定が現実には「好き嫌い」なのは、古今東西、不変の法則で、年功制であれ、成果主義であれ、殆ど関係ない。

 日本企業が、評価によってあまり賃金格差を付けないのは、上司に恵まれない社員のダメージを軽減し、退職を防止するためでもある。

 仕事をしていて一番楽しいのは、やっぱり仲間と企画を練って仕掛けて、それが成功をおさめたときだ。職務給と成果主義によって、社員同士の賃金格差が広がると、たぶんこういうことはできなくなる。僕は、そんな気がする。

 日本の年功制の背景にあるのは「仕事の報酬は仕事」という考え方で、成果を出せば、次はよりやりがいのある仕事ができるようになる。実は、このシステムは見かけ以上に優れている。

 「ここではない、どこか」に楽園があるわけではない。最近の若者には、年功制の企業で働くことを志向する傾向が強いが、それはとても理に適った傾向だと僕は思っている。

 山田宏哉記

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