ジョン・スミスへの手紙
 サイバー・ラボ・ノート (3101)

 "努力は報われる"という信仰

 幼い子どもは、サンタクロースの存在を信じている。成長するにつれて、徐々に真相を知るようになる。それでも、サンタクロースの存在を信じたことは、きっとその後の人生にとってマイナスにはならない。

 これまで僕は、「努力は報われる」という神話を信じてきた。「報われなかったのは、努力が足りなかったからだ」と考えるようにしていた。

 20代を通して、僕はこの教義に忠実だった。客観的に見れば、この教義は間違っているだろう。そんなことは、とっくに知っている。他人に押し付ける気もない。問題は、これがあくまで僕にとって、生きる糧になり得る信仰かどうか、だった。

 信仰はときに現実に打ち勝つ。20代の頃、僕は狂気的な努力家だった。

 学生時代、僕は恋愛においても、努力が通用すると信じることにした。いい男になるために必死で勉強し、全人格的な向上に没頭し、何を血迷ったか、ウェイトトレーニングまで始めた。

 当時の努力は、恋愛においては大半が役立たずだった。しかし、見逃せないのは、この種の狂気的な努力によって、僕の各種能力は著しく向上したことだ。

 今でこそ、僕は「山田さんって、才能があって、仕事ができて、頭が良くて、優しくて、凄いですね」などとお世辞を言われたりする。

 その背景にあったのは、切り立った向上心と、「努力は報われる」という教義への狂信的な肩入れだった。客観的に見れば「努力は報われる」という教義は間違いだとしても、おかげで僕は多くの技能と経験と教訓を得ることができた。

 だから僕は、少年少女には「努力は報われる」と教えた方が良いと思う。

 現実には、将来の夢に向かって人一倍努力しても、きっと夢は叶わない。いくら努力をしても、結果を出せないことの方が多い。競争がある世界では、誰かが勝つ一方で、誰かが敗れて去っていく。

 僕自身、社会人になって以来、仕事と勉強に1日あたり16時間を投下して努力してきたけれども、結局、濡れ衣でキャリアを棒に振ることになった。世の中は、そういうものだ。

 男女関係に至っては、合う人とは努力しなくても合うし、合わない人とは努力しても合わない。それは仕方がない。

 男が本能的に陥りがちな罠だが、女性を「努力の果てに獲得する対象」と見なすと、背伸びをして「いい女」にアプローチする必要があるため、無理が重なり、一気に苦しくなる。それより、一緒にいて疲れない女性と付き合った方が楽しく、たぶん人生が豊かになる。

 客観的に見れば「努力は報われる」というのは嘘だ。但し、人生を豊かにすることができる素敵な嘘だ。

 だから、僕は今でもどこかで「信じる価値はある」と思っている。サンタクロースが実在するかどうかよりも、もっと大切なことがあるじゃないか。

 山田宏哉記

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 2012.1.14 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ