ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3110)

 勝利の美酒に酔う前に

 昨日、僕は圧倒的な成果を出した。企画提案の段階から、ひとりで手がけた案件としては、これまでで最も価値が高いと思う。

 職務経歴書に実績として記すことができると思う。チームや組織への貢献度も高いだろう。

 しかし、天狗になる前に、僕には反省しなければならないことがあった。

 今回の件は、評価は得られたものの、僕が思っていた程には、組織にとって優先度の高い案件ではなかった。本来の自分の担当領域に照らせば圧倒的な成果だったが、組織にとっては、他にもっと優先すべきことがあり、それは僕が関知できる領域ではなかった。

 「どうでもいい社員には、どうでもいい仕事をさせる」という言葉は残酷だが、本当のことだと思う。「くだらない仕事をさせられている」と感じるサラリーマンは、おそらく組織から「どうでもいい社員」という評価を受けている。

 程度の差はあれ、企業は稼げる社員を大切に扱い、稼げない社員を粗末に扱うものだ。これは地位や報酬で見える格差よりもはるかに大きい。稼げる社員には、重要な仕事やプロジェクトを任せ、研修の機会を与え、実績が積めるように配慮する。

 一方、企業には稼げない人には厳しい。解雇はされないが、重要度の低い(損益へのインパクトが少ない)ルーティンワークを割り当てられ、会社業績に応じて人不足の部署へとたらい回しにされる。むろん、どこの部署でもコアとなる業務には触れられない。

 稼げる人になればなるほど、腕を磨ける仕事と学習機会に恵まれ、正の循環に入る。稼げない人はその逆だ。

 自分の仕事にプライドを持つのは非常に大切だが、「自分はどうでもいい人材で、任されている仕事は重要性が低いのではないか」という醒めた視点も必要だ。

 おそらく、僕は「あまり期待されていない人材」であり、「さほど重要な仕事を任されていない」という点を改めて自覚する必要があると思う。そもそも、自分に対する期待値が低ければ、期待を上回る成果を出しても、客観的に見て、大した成果とは言えない。

 組織の末端の下っ端にとっては夜も眠れないような重大案件でも、経営幹部からすれば瑣末なことだろう。

 「自分は重要な仕事を任されている」という勘違いは、仕事ができなかった頃の痛い経験だ。依頼に対応して貰えないことが不満だったが、相手から見れば、「どうでもいい人が、どうでもいい依頼をしてきた」という認識だったと思う。僕はそれをわかっていなかった。

 非常にニュアンスが難しいが、かつて僕がキャリアを棒に振ることになった敗因のひとつは、「自分の仕事に思い入れが強過ぎた」ことだったと思う。誤解を恐れずに言えば、僕は身の程を知り、自分の仕事をもっと「粗末」に扱うべきだった。

 今回の件で高い評価は得られたが、僕にとってはやはり不本意だ。過去の汚名を返上できるほどではないし、棒に振ったキャリアを挽回できるわけでもない。自分の能力にも不満だらけだ。

 いずれにせよ、今回の実績を足がかりに、更なる圧倒的成果を狙いたい。

 山田宏哉記

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