ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3119)

 "自動改札機の導入"で消える仕事を考える 

 現代日本では、電車運賃の決済は、自動改札機にプリペイド式のICカードをタッチする方式でするのが、一般的になった。

 今では日常に溶け込んでいて、改めて意識することは殆どない。

 自動改札機が普及する前は、駅員が乗客の切符を切っていた。切符をバチンと切る道具は、改札鋏(かいさつきょう)と呼ぶそうだ。

 自動改札機を導入することにより、お客さんの利便性は高まり、運賃決済の運用コストも大幅に低減されたことだろう。

 いいこと尽くめのように見えるが、現場で働く駅員にとっては、朗報とは限らない。

 自動改札機の普及以降、切符を切る技能は、殆ど何の役にも立たなくなった。当然、改札鋏を作る技術も不要になった。

 果たして切符を切っていた駅員さんは、どうなっただろうか。

 彼が、切符切りよりも、付加価値の高い仕事を手掛けているなら、これは歓迎すべき出来事だっただろう。反面、仮に彼にとって切符切りが唯一の仕事だったなら、組織にとって、もはや彼は必要のない人材となる。

 生活実感でわかりやすいので、自動改札機と切符を切る駅員を例に出したが、情報技術革命とは、「自動改札機の導入」を推進するものだ。そのメリットは、切符を切る駅員の存在を不要にするため、運用コストを低減できる点にある。

 IT企業は何を作り、何を売っているのか。比喩的に言えば、"自動改札機"を作り、駅員が改札鋏で切符を切っている非効率な企業に"自動改札機"を提案して、販売しているのである。

 もっとも、"自動改札機"は運用や保守に多少の費用がかかる。これはIT企業にとっての重要な収入源である。

 "自動改札機"は、それまで人間が手作業で行っていた仕事の存在を不要にする。だから、"自動改札機"が導入されたら、消えるような仕事をするのは危ない。

 例えば、映画館やテーマパークなどのチケット販売や半券切り関連の仕事は、果たして人間がやる必要があるのだろうか。"自動改札機"が導入されれば、多くのスタッフが不要になる公算が大きい。

 その一方、"自動改札機の導入"を成し遂げた人は、組織内で高い評価を受けるだろう。
私見では、今、企業が求めている(評価する)基幹人材は、"自動改札機を導入する人"であって、"切符を切るのが上手な人"ではない。

 "切符を切るのが上手な人"は、あくまでマニュアルレイバー(単純労働者)で、せいぜい年収2万ドルが上限だ。そして、"自動改札機"が導入された暁には、職を失うことになる。

 厳しいようだが、これが市場経済の論理だ。

 現在の日本企業でも、"自動改札機を導入する人"と"切符を切る人"は、割と明確に分かれてきている。

 しかし、"切符を切る人"は、案外これに気付かない。一生懸命、目の前の切符を切っていれば、「いつか報われる」と信じていたりする。

 確かに、いずれ報われるだろう。"自動改札機"が導入された暁には、"戦力外通告"という報いを受けるはずだ。

 もっとも、ビジネスの現場で"自動改札機の導入"をしようと思ったら「言われたことだけやる」という仕事のスタイルでは、決してできない。

 特に自動改札機で仕事を失うことになる人は、強烈に反対するだろう。だからこそ、場合によっては、反対を押し切り、スタッフの首を切る決断も必要になると思う。

 それでも尚、"自動改札機"を導入する。個人的には、今、企業が必要としているのは、こういう決断と実行ができる人だと思っている。

 山田宏哉記

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