ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3123)

 "利害の調整スキル"で道を拓く 

 実のところ、人間社会を生きる上で、本当に大切な問題は「利害の調整」だけではないだろうか。

 人は、ひとりでは生きられない。社会を生きる上では、他者と利害を調整しなければならない。

 「働かざる者、食うべからず」と言う。大半の人は、誰かに雇われて働くことで、その対価として、生活の糧を得る。これは立派な取引であり、「利害の調整」は、既にこの段階から始まっている。

 もっとも、働くことで得られる"生活の糧"の質と量は、決して万人に平等ではない。通常、雇用主との利害の調整が必要になる。

 構造的に見ると、企業と従業員は利害が対立する。

 企業はなるべく安い人件費で従業員を雇おうとするし、従業員はなるべく高い給料を貰おうとする。但し、利害の調整が上手くいけば「従業員は価値の高い仕事を提供し、会社は高額の報酬を支払う」という均衡点に落ち着く。

 雇われて働き始めてからも、"利害の調整"は常に必要になる。

 企業と顧客との関係を見ても、本質的には利害は対立する。ベンダーはなるべく高く商品を売りたいと考えるが、顧客はなるべく安く商品を購入したいと考える。

 こういう局面で、絶妙の均衡点を提案し、決着を付けることができる人は、どこの会社でも重宝されるだろう。

 更に言うならば、「利害の調整スキル」は汎用性が非常に高く、おそらくどのような職種でも役に立つ。上司や同僚との個人レベルの調整、社内の部門間の調整、対顧客の調整というように、「利害の調整」が必要な場面は非常に多い。

 ビジネスの現場でよく言われる"コミュニケーション能力"の核心は、実は「利害の調整スキル」なのだ。

 従って、就職に有利な学生生活を送るには、「利害の調整」が必要な場面を多く踏むのが有効となる。更に言うと、このような経験はビジネスパーソンとして働き始めてからも、非常に役に立つ。

 尚、「利害の調整」に際して最も重要なのは、「公平であること」だ(「平等」ではないことに留意されたい)。不公平な調整は、長続きしない。特に仕事の配分や人事査定は公平でないと、強い不満と恨みを買うことになる。

 もちろん、人間性も重要だ。

 但し、ビジネスで人間性が重要なのは、「信用」や「誠実さ」がないと、取引コストが増大してしまうからだ。ビジネスでは、人柄は潤滑油の役割を果たす。

 本質的かつ注力すべきはあくまで「利害の調整」の方で、人柄の良さだけで仕事をすると、すぐに限界にぶち当たる。

 ビジネスに限らない。人間社会の争い事は大抵、「利害の調整」の失敗が原因にある。

 国家規模の戦争から、親族同士の遺産争いに至るまで、僕たちは「利害の調整」を避けては生きられない。

 更に言うならば、争いのない世界を実現するために必要なのは「平和を願うこと」ではない。僕たちひとりひとりが、"利害の調整スキル"を身に付けることなのだ。

 山田宏哉記

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2012.3.25 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ