ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3125)

 ビジネスに活かす「サル山の論理」 

 先日、上野動物園に行く機会があった。その中で印象に残ったもののひとつが「サル山」だった。

人間の視点から見ると、「サルの個体差」にはあまり目がいかないものだ。しかし、注意深く見ていると、サル同士でも、ポジションや能力の格差が厳然とある。

 例えば、序列の高いサルや要領のいいサルが、美味しい部分を持っていく一方で、序列の低い猿は、そのおこぼれにあずかる。身体能力の高いサルには飛び移ることができる岩場で、他のサルは飛び移れない。

 そして、サル山を眺めていて感じたのは、人間組織との類似性だった。

 企業とは、サル山でもある。21世紀にあっても、新人は「サル山の論理」に配慮しなければならないのだ。

 新入りのサルがサル山で生き残るために最も必要なことは何か。実は「餌を獲得するのが上手い(仕事ができる)」ことではない。「ボス猿に気に入られる」ことだ。

 新入りのサルが、サル山で生き残るために2番目に大切なことは何か。それは、サル山のメンバーの顔と名前、果たしている役割を覚えることだ。直属のボス猿でなくとも、重要な役割を果たしている先輩サルとは、良い関係を築くことが大切だ。

 また、新入り猿は、暗に「下っ端の自覚」を持つことを期待されている。常にボス猿や先輩ザルのご機嫌を伺い、顔を立てなければならない。これは明示的な指示ではないので要注意だ。これをしないと「空気が読めない」「新入りの癖に生意気だ」と評価が下る。

 「サル山の論理」におけるリソースは「序列」と「餌」である。「サル山の論理」では、餌よりも序列の方が重い。ボス猿として君臨するためには、他のサルとの競争に勝たなければならない。しかも、極力、「集団としての和を乱さないように勝つ」ことが大切だ。

 ボス猿として君臨できれば、絶大な権力を手中におさめられる。自分に忠実な猿を取り巻きとして登用する一方、気に食わない猿には余りものの餌しか与えなかったり、集団から追放することもできる。ビジネスの世界では、これを「人事権」と呼ぶ。

 序列下位の新入り猿は、仲間のために、他所から餌を獲得してこなければならない。新入りザルはボス猿の指示に従い、餌を獲得するべく這いずり回る。ビジネスの世界では一般にこれを「営業活動」と呼ぶ。

 尚、サル山の猿にとって「餌を取ってくる技能」は、最優先の事柄ではないが、非常に重要なスキルではある。これがあると「サル山から離脱する」という選択肢が生まれる。「いざとなれば、一人で生きていける」という確信があれば、他のサルより、リスクを取れる。

 サル山では時に「ボス猿の器ではない無能ザル」が、ボス猿のポジションについてしまう。この種の無能ザルは、人事権を振りかざして、配下の猿たちを恫喝して、コントロールしようとする。こういう時「餌を取るスキル」さえあれば、このサル山から離脱できる。

 新入りの猿は勉強熱心であることをアピールしがちだが、これは「よくある間違い」だ。これではボス猿や先輩ザルが無用な警戒感を抱いてしまう。新入りザルは勉強していることを隠して、バカな振りをした方がいいのだ。

 とはいえ、優秀な新入りザルなら、どこかのタイミングで、先輩ザルを追い抜かなければならない。これには細心の注意が必要だ。秘訣を一言で言えば「一気に抜き去り、逆転不能な差を付ける」。

 「少しでも先輩に近付けるように頑張ります!」というのは、お世辞としては良いが、実際にやってはいけない。先輩ザルと実力が伯仲すると、人間関係で足元を掬われる。

 抜き去る直前までは完全に格下の振りをして、「その時」が来たら、一気に勝負をつけなければならない。

 人間もまた、動物である。

 社会人が感じるであろう"理不尽さ"の多くは、案外、「サル山の論理」で考えると、解決したりするものなのだ。

 山田宏哉記

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