ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3142)

 ノマドが嫌う日本企業

 近年、「ノマド」なる概念がよく話題になっている。

 ビジネスの文脈で使う際は、「"場所を問わずに、個人として働く"という概念」くらいの理解でいいだろう。最近では、「ノマドの実践者」という有名になる人もチラホラ出てきている。

 さて、「ノマド」と目される人たちは、日本企業の「古い体質」や「ブラックな部分」を蛇蝎の如く嫌っている印象がある。かねてから僕は、この種の言説にかなり違和感を持っていた。

 僕自身は、日本企業と雇用契約を結んでいる。おそらく、ビジネスパーソンとしてはかなり異端だが、完全な社会不適応者ではない。以下の話は、それくらいのポジションからの所感だと理解して頂きたい。

 ノマドはよく「自分は会社勤めをしていた時、新規の○○を企画提案したが、上司の頭が固くて採用されなかった。これだから日本企業はダメだ」といった趣旨のことを言う。
この発言は、ノマドと組織で働く実務家の違いを浮き彫りにするものなので、少し掘り下げて考えたい。

 企画は内容よりも、「どう通すか」が勝負だ。それを考え抜いて初めてプロの仕事になる。

 新規の企画を提案するなら、それを支えるロジックが必要になる。用意するべきロジックは、事業のビジネスモデルや決裁者の性格によって当然違ってくる。企画提案の論拠に、「顧客からの要望」を使うのか、「競合との比較」を使うのか、または別の論拠を用意するのか。

 企画のクオリティには「どのような論拠で、どう通すか」という部分も含まれる。

 「企画の内容は良かったが、上司の頭が固くて採用されなかった」など、学生の寝言に過ぎない。プロの実務家なら「何故、採用されなかったのか」を徹底的に考え、企画の欠点を潰し、再提案するものだ。それをしないノマドの能力など、「たかが知れている」。

 伝統的な日本企業でも、「やるべき理由」を明瞭なロジックで説明できれば、大抵、提案は採用される。一方「これからはソーシャルメディアの時代。ツイッターで商品の宣伝をするべきです」みたいなレベルの企画が不採用なのは、決して「上司の頭が固いから」ではない。

 実のところ、確かに僕も日本企業の古い体質(仕事と関係ない飲み会や社内イベントへの参加圧力など)があまり好きではないし、人事権の濫用やサービス残業の強要は明白な違法行為だと考えている。

 でも、これらも実は「(仕事の腕を磨くことで)個人で何とかできるレベルの話」だ。

 「組織の病弊」にも見えるものを、果たして個人の力で変えることができるか。彼らは(やる前から)「できない」と決め付けるが、僕なら「できる」と言う。ノマドの彼らと実務家の僕では、この認識が決定的に異なる。

 「ノマド」とは、一種の社会不適応なのだと思う。何も恥じることではないが、自慢することでもない。

 そして結局のところ、僕は日本企業について「ノマドが嫌うほど悪い場所ではない」と思っている。

山田宏哉記

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2012.5.26 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ