ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3144)

 知識と実務のあいだ
 -学校秀才は"仕事で使えない"か-

 よく「学校の勉強ができても、仕事ができるとは限らない」という趣旨のことが言われる。

 確かに、その通りだと思う。但し、その理由が明確に説明されることは少ない。

 ややもすると「仕事ができる奴はセンスがあるんだよ」とか「根性が大切だ」という話になってしまう。これでは、何も言っていないに等しい。

 僕なりには、答えは出ている。このようなことが起きるのは、学校世界と実社会で、知識の位置付けが変わるからだ。

  学校教育においては知識を得ることが目的となるが、実務においては知識そのものは目的ではなく、結果を出すための手段になる。

 更に言うなら、知識はないよりもあった方が有利だが、結果を出せれば、必ずしも知識を使わなくても構わない。

 知識と実務のあいだには一定の距離があり、このような「ルール変更」に適応できるかが、ビジネスパーソンにとっては最初の試練となる。

 例を挙げよう。仕事仲間が「この写真を自社のウェブサイトに載せよう」という話で盛り上がっていたとする。

 ある程度、実務経験を積んでいれば、確認するべきポイントは「著作権上、問題がないか」だとわかる。

 但し、知的財産権関連の試験で「他人の著作物を無断で使用してはならない」みたいな解答を選ぶことと、仕事仲間に対して「ちょっと待った。これは誰が撮った写真なのか」と確認することとのあいだには、実はとても大きな距離がある。

 著作権関連の知識を持っていたとしても、正しい対応ができるとは限らない。

 別の例を挙げる。デジタル家電の販売を担当するとしよう。

 自分の担当する商品であれば、例えば「このボタンを押しながら別のボタンを押すと○○ができる」とか「年間電力消費量は○○kWh」とかといった細かいスペックまで、覚える必要がある。

 お客さんは普通「家の冷蔵庫が古くなったので、そろそろ買い換えようと思っている」などと漠然とした言い方をする。

 このような場合、販売員はお客さんに確認すべきことがある。「現在、どのように冷蔵庫を使っていて、どのような要望や不満を持っているのか」という点だ。

 ニーズを聞き取りをした後、各冷蔵庫のスペック等を頭の中で比較し、お客さんにとってベストの冷蔵庫を選び出し、提案する。その際、商品知識を使うのだ。

 少し補足すると、お客さんへの提案は、候補を2、3に絞った上で、各商品の長所と短所を比較をしながら説明すると親切だ。更に言うなら、必要に応じて、商品の歴史や業界の動向も織り交ぜると、より説得力が増す。

 いずれにせよ、知識は不可欠だが、それだけでは不充分だ。

 学校世界であれば、試験がある。「商品AのBボタンを押すと何ができるか」といった問題が出題され、その問に正しく答えれば「正解」となる。このような暗記が得意な人が「学校秀才」になる。

 しかし、実社会では「商品AのBボタンを押すと何ができるか」のような問われ方をすることは、殆どない。

知識は、お客さんや仕事仲間とのコンタクトポイント(接触点)で有効に使えなければ、意味がない。

 では、どのようにすれば、知識を有効に使うことができるか。こればかりは実戦経験を通して体得するしかない。だからこそ、実務能力を伸ばすためには、どうしても一定の時間が必要になる。

 この競争に、学校秀才が勝てるとは限らない。他の条件が同じならば学校秀才の方が有利だが、実務能力の習得には気力や体力のような要素がモノを言う場合も多い。

 学校の試験であれば、答えるべき問題とタイミングが予め指定されていて、知識の有無がものをいう。

 一方、実務の世界では、答えるべき問題とタイミングは自分で決める必要があり、この部分で大方の勝負はついてしまう。知識の有無そのものは二次的な問題でしかないのだ。

山田宏哉記

【関連記事】
「結果が全て」の世界で生きる (2012.5.29)
ノマドが嫌う日本企業(2012.5.27)
なぜ、あの人は長時間残業をするのか(2012.5.26)
最近の若者はバカばかり(2012.5.26)
いかに"集中力"を発揮するか(2012.5.23)
辺境からの企画論(2012.5.20)
高橋俊介(著)『21世紀のキャリア論』覚書(2012.5.20)
競争優位としての"集中力"(2012.5.19)
ビジネスパーソンがヨガをするべき理由(2012.5.14)
岩盤浴の秘密 ―なぜ、女性に人気なのか―(2012.5.13)
ヤンキー文化圏の幸福な人生(2012.5.11)
学習能力向上の戦略(2012.5.1)
性的リソースの分配論(2012.5.1)
交通事故の本質と大手自動車メーカーの広告費(2012.4.30)
組織を動かす人になる(2012.4.23)
"才能の優劣"を考える(2012.4.15)
ビジネスに活かす「サル山の論理」(2012.4.7)
"自動改札機の導入"で消える仕事を考える(2012.3.3)
"人間関係のシャッフル"を考える(2012.2.22)
時を告げる人、時計を作る人(2012.2.18)
「異性のパートナー選び」に活かすマーケティング(2012.2.12)
実務家からみた"学校教育の本質"(2012.1.3)
プレイボーイはビジネスの強者か?(2012.1.1)
「上から目線」のあなたと私(2011.12.31)
「カネのため働く」という建前(2011.12.25)
"就活イベント"のビジネスモデル(2011.12.18)



2012.5.26 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ